その工場は夢を見る

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「みんなの夢、ですか?」ハルジオが母親に訊ねる。 「ええ。この国では誰もが自分の夢を持っているんです。そして誰もが夢に向かって歩いていく。それができるのも機械のおかげです。機械が発達して生活にゆとりができたから夢が見られるし、機械が発達していろいろなことができるようになるから夢は叶っていく。わたしたち夫婦も、機械のおかげで喫茶店を開くという夢を叶えることができました」 「なるほど」ハルジオはうなずき、訊ねた。「じゃあ、アジロくんにも夢があるのかな?」 「あるよ。おれはね、弟を生き返らせたいんだ」 「生き返らせる?」 「そ。弟のやつ病気で死んじゃったんだよ。だけどその前に約束したんだ。もしもおまえが死んでもおれが生き返らせてやる、そしたらまた一緒に遊ぼうってね。だからおれは、弟を生き返らせるのを夢にしたんだ」 「それはまた……」  とハルジオが言いかけたところで、母親が言った。 「大きくて立派な夢でしょう? わたしたちも彼の夢が叶うように応援しているんですよ」 「でね」とアジロは熱っぽく続ける。「弟を生き返らせるには精霊師になるのが近道だと思うんだ。おれ、ちゃんと本で調べたんだよ。精霊師は精霊の力をうまく利用していろんな現象を引き起こす。ときには不可能を可能にするって。だから精霊師になれば弟を生き返らせることくらいできると思うんだ。だからまずは、精霊師になるのがおれの目標だな」 「夢に向かってちゃんとした計画を立てて、アジロはえらいね」母親がほめた。 「このくらい当然だよ」アジロは胸を張った。  アジロも母親も笑顔だった。  ふたりの話しを聞いてハルジオは困惑したが、すぐに微笑んで言った。 「そうですか。叶うといいね、その夢」 「おう」  アジロは元気よく答えた。  そんなアジロの肩に手を置き、母親は言う。 「大丈夫。夢は必ず叶うのだから」  話しが一段落するとハルジオはコーヒーを飲み干し、代金を支払って店を出た。 「またのお越しを」  ハルジオを見送るふたりは、依然として笑顔のままだった。
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