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「なるほど、これは筋金入りですね」ニイザはやれやれとため息をついた。「夢は必ず叶う、ですか。アジロくんは、夢が叶わなかった人の話しを聞いたことがないのですか?」
「ないよ」
「一度も?」
「たとえいますぐには叶わなくてもいずれは叶う。信じている限り夢は終わらない」
「なかなかいいことを言いますね。たしかにそれなら夢が破れることはない。生きている限りは、ね。いえ、いいと思いますよ。そうやって希望を持って生きるというのは。だけどねアジロくん。あなたは生きている人の話ししか聞いていないんじゃないですか? 死者をよみがえらせたいというのなら、せめてもう少し死者の声を聞けるようにならないとね」
どういうことだよ、と訊こうとしてしてアジロは思いとどまった。
代わりにアジロは言った。
「また冗談かよ」
「いいえ、本気です」ニイザは再びにっこりと笑ってから続けた。「半分くらいはね」
「わけわかんねえ」
「わたしのほうこそわけがわかりませんよ。この国に溢れている夢や希望とやらがね。おや、どこに行くんですか?」
歩き始めたアジロの背中に向かって、ニイザが訊ねた。
アジロが振り返って言う。
「帰るんだよ」その表情には怒りが滲んでいた。
「あら、残念。もっとアジロくんとおしゃべりがしたかったんですけどね」
ニイザの言葉をなかば無視して、アジロはその場を去ろうとした。
だがふと思いつき、アジロは最後に訊ねた。
「あんたには、夢とかないのか?」
「そうですねえ、人間になることですかね」
ニイザの答えは、突拍子のないものだった。
また冗談か。
アジロがそう思ったとき、ニイザは言った。
「本気ですよ?」
「あっそ」
やっぱり付き合いきれない。
そう思ったアジロは、最後の最後にひと言添えた。
「叶うといいな、その夢」
そしてアジロは、ニイザと別れた。
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