六通目のお手紙

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六通目のお手紙

 あなたへ  またベランダにあの蝶が来ています。  いつだったか、あなたが見せてくれた切手のコレクションの中にも、蝶をモチーフにした切手ばかりが並ぶページがありましたよね。  私は思わず、 「綺麗!」  って声をあげましたっけ。  その中に、ベランダの手すりで翅を休める(みどり)の蝶に似た模様のものも、あったような気がします。  あなたの居ない毎日が、こうも(はかな)く、虚しいものだとは、私、想像もしていませんでした。  あなたの笑顔、目尻の小さな皺。えくぼ。私だけが知っている、私だけに向けられた特別な笑顔。あなたの瞳の中に、私だけが映り込むのを見るのが、私はとても好きなのです。  あなたの声、うっとりと心地よく、抱きしめられながら聞いた、あなたの声。あなたの温もり。そっと双丘の間に顔を埋めて聞いた、あなたの命の鼓動。  重ねた唇。とても柔らかくて、私がぐいぐいと押し付けると、どこまでも深く柔らかく受け止めてくれたあなたの唇。  寂しいです。とても、寂しいです。  見た目は本物そっくりでも、所詮、私はアンドロイド。人工皮膚は、触感こそ本物そっくりですが、あなたは「ちょっとクサいね」って言いながら笑っていましたね。  またね  
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