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ピアニストなんて無理と、始めらか諦めている和音がもどかしくて、叶弦はこれから自分が通う学校のパンフレットを押し付けて、空港行きの電車に駆け込んだ。
俺が、初めて和音を見たのは、去年の六月ごろ、朝から雨が降る憂鬱な一日だった。下校途中の公園でだった。最初はちょっとおかしな娘かと思ったが、なぜだか目を離せなくなり、しばらく見ていた。和音は、いくつもの紫陽花の花を目で追い、静かに目を閉じ、何かに聴き入っているような仕草を見せた。和音の指が鍵盤を弾くように踊りだしたのを見て、ドキリとした。
その後も校内や登下校で和音を見かけると、つい目で追っている自分がいた。和音はあの時、一体何を聴き何を奏でていたのか……
叶弦は、息を整え座わり見るとはなしに眺めながら、和音との出会いを思い返していた。
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