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アイドル活動
「……ここが…木々屋事務所…」
採用をされた次週の休日、僕は不安な気持ちを抱えながらも事務所へと訪れていた。
目の前にそびえ立つ高いビル、木々屋の文字がデカデカと書かれた派手な看板、入口には強面のガードマン。
(…本当に入れるのかな…)
緊張の面持ちを浮かべつつ、恐る恐るガードマンに近づいた。
「あの…すみません…」
「何だね?」
「あ、えと、この名刺の人に会いに来たんですけど…」
ガードマンは名刺の名前を確認すると、小さく溜息をつき、僕の背後を指差した。
「あそこにいるよ。」
「…え…?」
振り向き、ガードマンの指す方向を見ると、そこにはごく普通の一軒家が建っていた。
「家?…住んでるってことですか?」
「いや、あそこが事務所。」
「…え?…冗談とかではなくて?」
「ないね。」
ガードマンの表情を見るにからかっているわけでは無さそうだ。
「でも、木々屋事務所ってここでしょう!?」
「そうだよ。けど、その人はこことは一切関係ないんでね。社長にもその人の関係者は事務所に通さないよう言われてる。」
「……は?」
「分かったならもう行った行った。」
犬でも追い払うかのように手を振るガードマンに少しイラつくも困惑を隠せない。
(……なんだよこれ!詐欺じゃねぇか!!)
心の中で怒りをぶちまけていると不意に誰かに肩を叩かれる。
「やっぱりー、君だったんだ。来てくれたんだね。」
「この間のお兄さん!!」
振り向くと僕をメイクしてくれた青年がいた。
「事務所みて驚いた?でっかいっしょ。」
「はぁ?!何いってんすか、あれは違うんでしょ!」
「いや?俺らの事務所だよ。」
「で、でもガードマンさんが…!」
「あー、代表の犬ね、はいはい。」
青年はガードマンへ視線を向けると、ニッコリと目を細めた。
「お疲れさまですー。いつもいつもすんませんねー。」
「ちょっ!」
適当に会釈すると、青年は黙って僕の腕を引き、一軒家の方へと歩き出した。
「何なんすか急に!」
「…あっちの建物、今は近づかない方がいいよ。こわーい人たちがたくさんいるから。」
「……?」
「…なーんてね。何でもない。早く響さんのとこ行こ。」
一瞬見せた青年の暗い表情を不思議に思いながらも、何も言わずにそのままついて行った。
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