同居人は料理が上手い

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 盛山と細川は同じ大学の学生だが、学部は全く違う。そもそも盛山は文系だったし、細川は理系だった。そんな彼らの共通点は、学園祭の実行委員だったことだ。ただし学部内のじゃんけんで割り振られた係であり、二人とも望んでその立場に就いたわけではなかった。  幸いだったのは、有志で実行委員を続けている先輩達が中心となっている行事のため、活動が自由参加であったことだ。同じ実行委員でも学園祭の当日まで顔を合わせなかった者もいる。とはいえ、当日だけでなく準備にも人手が必要なので、最低でも週一回は参加するように言われていた。  細川と最初に話した内容は覚えている。確か、作業後に残っていたメンバーで晩御飯を食べに行ったときのことだ。  大学から徒歩一分のところにある、お手頃価格の中華屋さん。盛山がチャーハンと玉子スープのセットを黙々と食べていると、向かいに座っていた細川が声をかけてきたのだ。 「それ、好きなの?」 「は? ……チャーハンと玉子スープ?」 「そう。美味そうに食ってるから」 「……まあ普通に好きだけど、そんな顔してた?」  細川は会話のきっかけが欲しかっただけなのかもしれない。けれど、盛山はとても恥ずかしかった――食い意地が張っているのは事実だが、親しくもない相手から指摘されると消え入りたくなる。音を立てて食べてしまったか、と慎重に食べ進めると、それがまた細川の微笑みを誘ってしまったりして。 「ごめん。食いにくくしたな」 「いや、いいけどさ。細川君は小食過ぎるんじゃないか? 晩御飯は餃子だけ?」 「……家帰ったらメシ作らなきゃいけないんだよ」 「え、実家暮らし? てか、細川君がご飯作るの?」 「ああ。母も姉もフルタイムで働いててさ。自然と押し付けられてたわ」  家庭環境どうなってんだとか、料理はいつから作ってるんだとか、細川に聞きたいことが山ほどできたが、その時は聞かなかった。  ちなみに同居後の現在ですら全てを知ることは出来ていない。
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