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……物足りない。口寂しい。腹の中じゃなくて、量の話じゃなくて。食べ物の話じゃ、なくて。
このカレー、リンゴの代わりに何が入ってるんだ?
これ好きだ。
美味しい。
また食べたい。
次々浮かんでくる素朴な感想を細川に伝えたい。細川に、少しぎこちないけれど嬉しそうな笑みを浮かべてほしい。その顔を目の前で見たい。そういう気持ちがあったから、盛山は細川の料理を褒めていたのに。
細川が作ったものとはいえ、料理だけでは意味がないのだということに盛山は気付いてしまった。
心の中に芋づる式に浮かんでくるのは、二日前、細川とポトフを食べたときのことだった。
細川の言う「好き」という言葉に特別な意味を想像していたこと。「間違っている」といけないから踏み込めなかったこと。
細川の気持ちは分からない。けれど盛山は、自分の気持ちだけは確実に理解してしまった。
細川にずっと一緒にいてほしい。
好きという言葉に意地悪な意味だけでなく、真っ直ぐな意味も込めたい。
細川も同じ気持ちであってほしい。
細川が帰ってくるのが待ちきれない。早く全て伝えたい。……食事は待てるのに。
その夜、盛山は深夜まで寝付けなかった。あまり遅くまで起きていると次の日に響く。細川が帰ってくる以外の予定がないとはいえ、できるだけ身なりを整えておきたい気持ちも盛山にはあった。
願わくば快い返事が欲しい。もし苦い顔をされたら立ち直れない。けれど、その時は受け止めなくてはならないことも分かっている。好きな人の大切な気持ちなのだから。
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