お口に合わなくて・・・

1/7
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 こんなに遅くなるなんて予想外だったな。山道を歩きながら、源経盛は溜め息を吐いた。ちょっとした用事で出かけたはずだったのに、いつしか辺りは真っ暗。しかも知らない山道だ。不安になる。  時は平安末期。源氏と平氏が忙しなく戦う世の中だ。その中にあって、源の姓を持つ経盛もまた、戦に挑む日々だった。  とはいえ、経盛が生活する場所は東北。大きな戦乱は少し前に終わり、中央の小競り合いにたまに巻き込まれる程度。さほど切迫はしていなかったが、それでも、隣村にいる武士団との連携のために、こうして出掛ける羽目になった。  そして、色々と積もる話もあって遅くなってしまった。山の中、とぼとぼと歩きつつ、こんなんだったら朝まで泊めてもらうんだったと後悔が過る。が、隣村の武士団たちは酒癖が悪く、泊まり込みとなると三日は役立たずになるほど飲まされる。それは避けたかったので、こうして夜道を歩いているわけだが―― 「不気味だなあ」  夜の山の中は、どことなく不気味で怖かった。ほうほうと鳴くフクロウの声やかたかたと鳴く虫の声。さらにはざわざわと感じる野生動物の気配。それらが怖さを助長する。いくら武士で人を殺めたこともあるとはいえ、怖いものは怖かった。 「ああ、もう。俺って馬鹿」  怖いと思えば余計に怖くなる。ぶるっと身体を震わせ、経盛は気合いを入れ直した。ともかく、後は下り。麓までもう少し。そう思って一心に足を進めていたが、ふと、いい匂いがして足が止まった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!