お口に合わなくて・・・

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「なんだ?こんな人里離れたところに人家があるのか?」  経盛はきょろきょろと辺りを見渡す。別に人家があっても不思議ではない。そういう時代だ。ひょっとしたら一晩泊めてもらえるかも。そう思って、経盛はその匂いに釣られるように歩いた。 「あっ」  そして見つけた。一軒の庵を。藁ぶき屋根のその庵からは明かりが漏れ、そして、何やらいい匂いがしている。 「しめしめ」  と、経盛はその庵へと近づいた。この辺に住むとは、坊主か何かか。それとも猟師だろうか。何にせよ、助かった。 「すみません」  庵の入り口から声を掛けると、はあいと返事があった。その声は、予想に反して女のものだった。  あ、駄目かも。そう思ったが、声を掛けてしまったからには、ここでトンズラするわけにもいくまい。主が出てくるまでは待とう。そう思っていると、杉板の戸が開いた。 「まあ、迷われたのですか?」 「は、はあ」  そして、現れた女に、経盛は息をするのを忘れて見惚れてしまった。なんという美人。しかも年の頃は二十歳ぐらいか。何といい。二十代後半の経盛にとって、こんな出会い、ときめかない方がおかしい。 「こんな家でよろしければ、一晩どうぞ。丁度夕飯を食べようと思っておりましたの」  女はにこっと笑って経盛を招き入れた。ちょっと顔に朱を刷き、まんざらでもない顔までしている。経盛は別の意味でもご馳走になれるのかと、より呆けてしまった。 「お、お邪魔します」
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