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知らない男の怒鳴り声は続いている。
──独り占めは良く無いんじゃ無いか?せめて半分こにしようぜ、翼竜会さんよぉ
──ここは翼竜会とは関係ない、お引き取り願おう
──雑魚は黙ってろぉおりゃ
──雑魚の相手は雑魚がするもんだ
──なんだとぅおりゃ
うん。
細かくオラオラがはいっててVシネっぽい。
翼竜会って椎名の所属する組の名前だと思うけど椎名の声は聞こえてこない。話し声は2つ、威勢を張って怒鳴り散らす借金取りともう1つは多分だけど銀二だ。舌を巻き、ドスをきかせた話し方は臓器売買のセールストークとも地味で淡々とした消える男とも随分違う。
真面目で努力家って噂だから練習したのかな……なんて考えると、聞こえてくるヤクザトークが面白くなってきた。
どうせ逃げきれるか死ぬかの二択しか無いのだ。
悲観している時間が勿体無い。
劇画調に言い争う怒鳴り声を堪能する事にした。
──話し合いをする気は無いみたいだな、こっちは実力行使をする用意もあるんだぜ?
それは怖い。
──大した背景も無いくせに空言をほざきやがる
──なんだとぉりゃ
──ガタガタ言わんとさっさと借用証書を見せろやぁ!!どこに息子の名前が書いてある?!あ"あ"?!ほら出せや!!
銀二さん、カッコいいけどそれはまず椎名に言ってくれ
──んなもん知るかぁボケ、ほら証書はこれだ………おっと触んなよ、俺は懐に飲んでるぜ
──出したかったら出せ、どうせお前のち●ぽより小玉だろう、ああ……こりゃ失礼、お前のち●ぽと比べたら小玉の小玉だなぁ、小指の先程じゃ命は取れんぞ
──んだとこりゃぁ
三下加減は借金取りの勝ち、下衆加減は銀二の圧勝。そしてチンピラ役の顔が何故か死んだ親父になって来た。
──てめえ、死にたいらしいなぁりゃ
──ほんまガタガタ五月蝿いやっちゃなぁ、証書にはなんぼって書いてあるんじゃ、60?シケてやがるな、おい、お前!突っ立ってないでさっさとあれ出せや
「お前?」誰に向かってお前って言ってるの?健二さん?それとも他にも誰かいるの?
突然静かになった事務所からはボソボソ声しか聞こえなくなった。そして次に聞こえたのはチャリンと軽快に響いた金属音、そして借用書を置いて行けと言ったのは椎名だ。
いたの?
よく思い返せば銀二は誰の名前も言ってないし、どうやらこの事務所で一番偉い人を演じていたフシがある。つまり「お前」とか「突っ立ってないで」とかは椎名に言ったような気がする。
またボソボソ声がして、とうとうシンと鎮まった。
どうなったのかわからないけど細かい事はどうでもいい、これは最後の正念場が近いって事だ。
壁に張り付いてドアが開くのを待った。
聞き取れない話し声、そして衣擦れの音。
暫くするとコンコンとドアが鳴った。
勿論自ら開けたりしない。
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