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「うん……葵くんの言いたい事もわかるけど……確かに話を聞けば健二は変だけど……それは極端じゃ無いか?」
「そんな事無いです、椎名さんも知ってるんでしよう?俺はつぶさに見てたんです、もう間違いないと思います」
健二という人は頭は悪く無いと思うけど馬鹿だと思う。そこにいるだけで空気を明るくする馬鹿。
そしてちょっとだけ頼りになる人でもある。
普通にしていれば結構なフェミニストでもあるから、あくまで普通にしていればの話だけどモテると思う。
でもモテるとかモテない以前の話なのだ。
つまりここの所の「変」には理由があると思う。
ってかある。
「確信があります、そして困ってます」
「じゃあ健二に……直接聞いてもいい?健二が何を言っても受け入れる覚悟はある?」
「覚悟は……」
覚悟があるかどうか……何だか恥ずかしいし、もしかしたら椎名に頼るなんて間違っているかもしれない。でも直で聞くより心の準備はしやすいと思う。
「はい、受け止めるかどうかは……今決められないけど……考えてはみます」
「じゃあ俺が取り持ってあげるから葵くんはちょっとだけ黙っててね」
「はい」と答えたが、椎名がふて寝している健二を呼びに行くと、心の中にフワリと不安が降りてきた。
健二の答えによっては……もしかしてもうこの事務所で一緒に暮らすのは無理になるかもしれないのだ。
数ヶ月過ごしてきたこの部屋は正に「事務所」で、ベッドなのに雑魚寝って感じで風呂から出て来たら見知らぬ客がいるかもしれないような住処だったが妙に居心地が良かったのである。
脅されても何でもこの事務所にいたい……なんて思ってる。
気のせいであってくれと願いつつ、胸の中ではもう間違いないと結論が出ていた。
寝ている所を起こされた健二は「何だよ」と眩しそうに目を細めて珍しく不機嫌だ。
「健二、聞きたい事がある」と、前置きもなく椎名が話始めると、何だか覚悟が揺らいで背の高い背中に張り付いた。
「健二……お前さ」
「うん」
「小さいおじさんか小さい女の人を事務所に隠して無いか?」
「…………」
「小さい……って?どんなサイズ?」
「それは……よくわからないけど葵くんがそう主張している」
「な?」と振り返った椎名に深く頷いた。
だっておかしいのだ。
普通のサイズ……つまり大人一人分のオヤジとか女の人を隠すスペースはどこにも無い。
しかし健二の怪しげな奇行は目に見える範囲に苦手なオヤジとか女子がいるとしか考えられない。でも普通サイズではどう考えても無理なのだ。
「何言ってんの?」と健二は惚けている。
「惚けてないで白状してください、いるんでしょ?隠してるんでしょ?俺が邪魔ならハッキリそう言えばいい!」
「ちょっと待てよ……それよりも葵さ、そんな所で椎名さんに抱きついてないでこっちに来いよ」
「嫌です、健二さんの馬鹿、誤魔化してるんでしょう、健二さん誤魔化してる」
「誤魔化すって何を誤魔化すんだよ」
「否定しないもん、ねえ?椎名さん!おかしいでしょ?健二さん変でしょ?」
「変だけど……」
「小さいおじさんと言われてもな」と、椎名は困っているように装ってるが口元が笑ってる。
つまり信じてないのだ。そりゃ変な事を言ってるのはわかってるけど健二の奇行は「その類」意外では見た事ない。
「小さいおじさんじゃなければ……」
そうじゃなければ「アレ」しか無いけど、今はこの事務所に住んでいるのだ。家っぽい雰囲気は皆無でただでも冷たいくらいの無機質だし、窓にはカーテンも無いし、夜になると広い窓の外がちょっと怖いのだ。
それを言ってしまっては居心地が悪くなる。
でも小さいおじさんとか女の人でなければ……もしかしたら見える人と見えない人がいるあれが健二には見えてて……。
「ゆ……」
「幽霊?」と言葉を継いだ椎名がキャーッと悲鳴を上げた。つられてキャーッと喚いてしまう。
椎名と二人でキャーキャー喚きながら抱き合ってキャーキャー喚きながら走り回って……気が付いたら事務所の隅まで逃げていた。
当の健二は益々不機嫌になってムッとしている。
「おい、何だよ、二人して」
「健二さんは普通にしてた方がかっこいいから!変な事しなくてもカッコいいから!この事務所にいる時は駄目駄目で見せない方がいいから!追い出して!」
「……え?俺カッコいい?」
「カッコいいです!ねえ椎名さん!健二さんはカッコいいですよね?」
「ああ……もうこのままじゃ……俺は死ぬから……二人で好きに話し合って…くれ」
ゲラゲラと笑いだした椎名はフラフラとよろけて座り込んでしまった。
真剣なのに。
え?幽霊?
怖く無いよ。
怖く無いけど顔が見えない人と暮らすなんて誰でも嫌だと思う。怖く無いけど気持ち悪い。
「いるんでしょ?見えてるんでしょ?」
「俺…カッコいい?」
「カッコいいですよ、だから…」
「そうか……カッコいいか」
「………はい」
何なのだろう。
パッと破顔した健二は「生ハム食べるか?」と言ってガキガキになった生ハムの残りを冷蔵庫から出してきた。
「おっ」と感嘆の声を上げた椎名がワインでも飲もうと言いだして昼間っからの酒盛りになった。
ご機嫌に酔っ払った健二はその日から通常運転に戻ってくれた。
幽霊…か小さいおじさんは出て行ってくれたらしい。
それからもう一回言っておく。
幽霊が怖かったんじゃ無い。気持ち悪いだけだ。
これが、我が「法律では裁けない問題を解決します」略してH.M.Kの日常です。
終わり。
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