タピオカ

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すぐに逃げるか、どうしようか迷ったがこの後いつ風呂に入ったり出来るかわからない。取り敢えずは歯を磨いて顔を洗う。 ………そうだ。 パジャマの代わりにしろと椎名に渡されたTシャツが新品のまま置いてあった筈だ。 それに着替えて、今着てるTシャツを洗っておく。腰にでも巻き付けておけばそのうちに乾くから予備になる。 「じゃあ洗濯しよう」 洗濯と言っても水に濡らしてジャブジャブと擦るだけだ。石けんで洗えればその方がいいに決まってるが水だけでも十分だと知っている。 手で絞って……と、今腰に手巻けばズボンがびしょびしょになるから取り敢えずは手に持って洗面所を出ると。 「ああ、葵、おはよう。よく眠れたかい?」 「おう葵、朝飯があるぞ、食うか?」 ガクっと首が垂れた。 何故、どうしてゆっくりしたのだ俺の馬鹿。 確かにこの事務所に連れてこられてからは椎名も健二もひたすら優しく、乱暴な事は何もされてない。ご飯も貰ったし、2回も寝たのに腎臓も無事だ。 でも相手はヤクザなのだ。 組の人達なのだ。 もっと俗な言い方をすれば暴力団なのだ。 団体の名前に「暴力」が入ってるって何? 何故、何々会系指定暴力団とか言われて受け入れてんの? 世の中の仕組みが訳わかんないよ。 「で?どっちにする?」 「はい?何がですか?」 ヤクザと暴力団?それとも呼び方? それともまた腎臓か角膜の二択? 迂闊に返事は出来ないから答えに詰まると、健二がヒョイっとコンビニの袋を持ち上げた。 「……いや、だからおにぎりとサンドイッチどっちにする?」 「サ……サンドイッチでいいです」 「飲み物は?コーヒー?何だか好きそうだったからバヤリースも買った来たぞ」 「……コーヒーでいいです」 じゃあ、とサンドイッチを出してくれた。 椎名は何も言わずにニコニコして、コーヒーを淹れに行った。 知らない間にお金を払っているにしてもサービスのいい職場だと思う。 勧められるままソファに座ってレタスがパリパリしているサンドイッチを食べた。 食事を取っている間に椎名はどこかに行ってしまったが、健二は隣に座っておにぎりを齧ってる。 顔を合わせてしまったのだ。 言わなきゃいけない事があった。 「健二さん…」 「ん?何?、おにぎりも欲しいのか?」 「違いますよ」 そう…… 言い忘れていたが健二はよく食う。 昨夜も健二に合わせているうちにお腹一杯って文字通り、胃から溢れて食道まで満タン、高級焼肉が口からはみ出そうになっているのに、もっと食えと言われて、タレの皿が山盛りになっていた。 「サンドイッチ一個で十分です、それより……昨日……ごめんなさい」 「何?改まって、何かあったっけ?……あ、もしかして俺がキープしてたブルーチーズ食っちゃった?」 「ブルーチーズ?……青いチーズなんてあるんですか?」 「何だ、葵はブルーチーズを知らないのか?匂いでみる?」 「はあ……」 何故「食べてみる?」では無いのか……健二が冷蔵庫から出してきた扇型の塊を鼻先にくっつけられて理由がわかった。 「くっさ!!それ腐ってます、すぐに捨てましょう、くっさ」 「ハハ、葵は異様に可愛いな、ブルーチーズは溶かすともっと強烈だぞ、はっきり言ってゲ●の匂いがする」 「やってみる?」と聞かれたが熱烈にお断りをしておいた。 今回だけだけど、「可愛い」って言ったのも保留にしてやる。 健二は誤魔化してくれたのだ。 昨夜変な態度を取ってしまったのに、理由は聞かないと暗に言ってくれている。 気のせいかと思ったけどやっぱり健二は優しい。そして椎名もヤクザだけど、人としては優しいのだろう。
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