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おデコに冷えピタ3枚。
肩と腕に湿布、細かい傷に絆創膏を沢山。骨折とかより重傷に見えるのは何故だろう。
邪魔だから剥がすと怒られるのも何故だかわからない。椎名は面白そうに笑っていた癖に、立つな歩くな寝てろ、箸すら持たせて貰えず、ホッカホカの唐揚げを差し出して口を開けろと言う。
何某かの「ごっこ」をして楽しんでいるんだろうなって推測出来るけど、熱いものは自分のペースで食べたいし、お茶も飲みにくいだけだから手に持ちたい。子供扱いは嫌だけど椎名を納得させるコツは「大人しく従う」って事だから言う事を聞いたけどね。
そして、空振りを喰らわなくて済む貴重な週末なのに夜の仕事は却下された。
一人で出て行く健二を見送ると取り残されたような気になる。
馬鹿みたいな仕事だと思ってたけど楽しかったんだなってしみじみと思った。
ここ連日、事務所に張り付いていた椎名が留守をしたのは窓からジャンプの日から数えて5日目だった。
その間に健二は一人で騒音バイクのターゲットにした奴の家を割り出し、名前と職場を特定していた。
ついでに言えば、椎名はあの次の日には車を取り戻し、すぐに売ったのか新しいベンツになってる。
無邪気なチンピラさんはきっと今頃は厳しい制裁でも受けてるんだろうなって思うとちょっと同情した。
健二が調べて来た爆音族の筆頭
名前は兵藤勝也、何と27歳、つまり未成年の深夜徘徊ですらない。職業は鳶で月曜から金曜まで真面目に働いている。所持しているバイクは勿論盗んだ物とかじゃ無くて正規代理店で購入して自賠責も切れてない、サイレンサーは取り替えてるけどやはり適合済み、ただしインナーバッフルを取り外している可能性はある。
「てか外してるんだろうな、じゃなきゃあんな音は出ないだろう」
「健二さん待って、インナーバッフルって何ですか?」
「俺も詳しくないけどマフラーの消音パーツの事だ、メーカーはかったやつがどう使うかを分かった上で検査だけを通し、後はご自由に取り外したりしてくださいって大きい顔をしている」
「警察は捕まえられないのかな」
「捕まったら整備不良の違反を取れるけどな、だから県境に集まるんじゃないか?」
うん、法の裏側ってそう言う事なんだ。
捕まえても「ただの整備不良だ」「ミス」だと言い逃れて、また当然のように夜の町に出かけていく。このイタチごっこは太古の昔から続いているらしい。
「じゃあやっぱり狙撃するか道路にピアノ線でも張ってぶち殺すしかないんですか?」
それかこの際だからデスノートを探しみるとか。
「いや、取り敢えず俺達に出来る事をやろう」
「出来る事って?」
「言っただろ、大久保さんと同じ目に合わせる」
「………」
やっぱりそこに戻るのか。
諦めてないだろうなって思ってたけどやっぱり来た。
前は止めようと思ってたけどもう止めない。
実はちょっと面白そうだなって思ってるからだ。
作戦名は「ブイブイ言わせて反省を乞う」
早速、俺と健二は決行の夜に向けての準備に入った。
実は煩いバイクを事務所前まで持ってきた事を「悪目立ちするな」「ガラが悪いと宣伝するな」と椎名に怒られていた。
それなら椎名こそ超ガラの悪いベンツなんかを乗り付けないで、大人しく白いプリウスにでも乗ってろって言いたいが、椎名曰く、「暴力団の威光はバリケードになるけど、ただの不良では枷にしかならない」って事らしい。
本物のヤクザである椎名だからこそ言える詭弁だと思うけど、親父が死んだ時に押し寄せた他の借金取りが訪ねて来ないのはそのせいかな、とは思う。
怖いもんね。
こんな時は暴力団って便利。
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