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「お前が空を見るんじゃなくて、空に居る父親に見て貰うんだろ……」  一点に集まった日本中の燻った感情の煙のせいで、境恵希の父親が彼女の笑顔を見れないのは無残にも程がある。  オレの鬱蒼とした気持ちが雲を作らせてしまうんなら、雲の中でも赤い星は輝いているのだと証明したかった。  春の終わりの通り雨、オレの奥底にある厚い雲。ままならない要因が彼女の気持ちを阻むなら。せめて心の中にだけでも、虹を作れる魔法が欲しいと思った。  だけど何もかもが足りなかったから、大野さつきに助けを借りた。  何か嫌な出来事があって、彼女の気持ちが曇っても。境恵希の父親が娘を想ってくれるように、願うことしか出来なかった。  だから今は助けを借りてでも、それを義姉に証明したかったんだ。  真っ赤な星ごとケーキを口に運んだ義姉は、ゆっくりと飴を舐めるかのように、味わう様を描いていく。  雲はいつか姿を変えて、空を映して星を出す。どこまでも宇宙が続いていくように、人の想いだって永遠すらも超えていければいい。  やがて眼を閉じた境恵希は顔を上へと向けて、一筋の涙を零した。  何処からか降り注いだ雪の結晶が、一人の暖かい心に溶けたようだった。彼女の頬を伝った美しい宝石は、やがて気持ちになって天へと届いていくだろう。 「長く助走を取った方が、もっと遠くに飛べるって聞いたことがあるんだ」  目じりに涙は含んでいたけど、境恵希の声はいつも以上に明るかったのが印象的だった。  もしかしたら彼女の元に落ちた雪は、始めから暖かかったのかもしれない。  それが優しさになって、輝きを増したんだとオレは信じたかったんだ。 「ありがとう。最っ高ぉの、誕生日だよ」  その微笑みが光になって、オレの胸を貫いた。張りつけの刑になったって、明日に向かって生きていけるような強さを持った笑顔だと思った。  オレの心の中で、何かが動き出したような感覚に陥った。  宝石でもなければ、星でも無い。  どんな優しさも暖かくて、どんな金属よりも輝いていた気がしたから。  今の自分には真っ直ぐに見据える事なんて、出来やしなかった。  それでも、いつかは真っ向から見れると信じたかった。
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