2step close

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「一緒に行く?」と聞かれたが、オレは左右に首を振って答えた。彼女とてオレと歩いても面白くもなんともないだろう、妙な気は使われたくはない。  もしかしたら、境恵希は天使の生まれ変わりなのかもしれない。同じクラスになって気づいたのだが、誰にでも屈託の無い笑顔を向けるし、誰に対しても同じように接する。笑顔は絶やさないし、怒った場面も見た時が無い。  とんでもない歌が鳴り響いたとしても、彼女は笑顔で聞き入るんじゃないかとか思ってしまう。クリスマスが似合いそうな女の子は、オレみたく血の匂いを感じないのだろう。  境恵希からするとこの世界は、どこまでも素敵に見えているに違いない。くそったれみたいな世界だって思った。  だが、お前のその世界、オレはどうしようもなく羨ましい。愛してるが最強って世界中に叫べて、愛し合う姿が綺麗な世の中。どこまでも愛しくて、くそったれ。  道を歩く、緑を見る。ツヤツヤしているが、別に何も思わない。しいて言えば、焼きそばの方が旨そうに見える。だが、彼女はこれを見て、綺麗だとか思うのだろうか。  虹の装飾が付いたなら、雲とまん丸の御日様と夜を知らない朝顔が咲く。季節とか時間だとか、運命が誰が決めるとか。沢山の夜が消えて、気づいたら冬になるオレとは違うのだろう。  魔法があるんだとしたら、オレはそれが解けた状態だ。屈折した自分を、如何に真夜中に振る雨音に耳を澄ますかで整えるしかない。それしか生きた心地なんて、思っているオレには分からない感覚だ。一種の病気だって誰しもが言うが、まさしくその通りなのだ。  風になれたのならば、そのまま旅したい。当てなんかなくて、地平線の向こうまで行く。この地球一つくらい、何周でもしてやろう。疲れたら止まって、コーラでも飲んで、誰かの誕生日を祝う。ボン・アニバーサリー、どこぞの誰かさんや。  振りかえっても無駄、説明なんて要らない。聞いたって分かりっこないのさ、だって謎は解けないからこうなっている。  謎を解く鍵を探す必要があるのかもしれない。しかし、それをした所で誰が喜ぶのだろうか。いの一番に喜ぶのは姉だなんて、のっけから分かっている。浮かれっぱなしの狂騒は飽きたが、風穴を開けに行く必要はあるようだ。  未来は何処にあるか分からないが、最終列車は消えちまった。思い出は消えてないが、オレはまだ何もしていない。
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