2step close

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 通り過ぎて行って、流れて消えた瞬間の景色。一人で光る非常口で、自分の存在を確かめる。ピアノを弾けない道化師が、どんどんと過去を遡る。何も知らない少年が、それを英雄視する。どこまで行っても平行線、どこまで行っても無色透明。  起きたら義兄の顔があった。夕食時なのかと思えば、朝日が窓から差し込んでいた。朝までぐっすりとか、育つ子は寝すぎじゃないのか。  頭が電池切れなら、取り換えろって思った。オレは自分の電池が何処にあるのかなんて、見当も付かなかった。今日の運勢は何色だろうか、白とか言われても気分じゃない。 「おはよう、大地」  おはようと言った声は、湿地帯の泥のように拙いと自分でも思った。 「今日は学校に行けるか?」  オレは目の前のチャコールグレーのスーツの男に頷いた。世の中の教師が好んで着る種類の色だから、目がいつでも濁っても仕方ないと思う。 「俺は先に出る。着替えてケイと朝食を済ませろ」  まるで監獄の看守みたいだが、あながちそれも間違いじゃない。行き当たりばったりのオレには、こんな扱いで十分なんだ。ただし刑期は決めて欲しいところだ。  制服に着替えて、寝間着替わりのジャージを片手に階段を降りる。とどのつまりはアレだ。つかの間の自由って奴が、招いた結果がこれなのだ。死ぬよりマシだと考えれば、これはこれで悪くはない。  キッチンに入ると、義母と姉が並んで炊事をこなしていた。誰もが羨む理想の家庭の光景に、異質な存在が紛れてしまった。出来の良い家族に、不出来な息子が舞い降りた。それでも梨海は、オレに向けて星のメロディを鳴らした。 「ダイちゃん。起きたのね、良かった」  雨が止んだのよ、って言われたような気分だった。オレは犬じゃないんだが、もしかしたら限りなく人間に近い犬なのかもとか思ってしまった。  ジャージを何処に放ればいいのか聞いたが、姉が手からそれを引っ手繰って何処かに消えた。代わりに義母が「おはよう」と言ったので、オレも同じ言葉を返してみる。さわやかな朝とは、真逆の声だって思った。 「ご飯、出来てるわ。お召し上がりなさい」  お召し上がりなさいなんて言われる立場ではないのだが、オレは甘んじて礼を言う。案内された椅子は、境恵希の隣だった。笑顔で挨拶されたんだが、血と鉄の混ざったような声しか出なかった。
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