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あの頃のことを思うと 今でも嗚咽が込み上げそうになるのです 壮絶な辛い記憶はいつまでも色褪せることはなく 訪れる何気ない切っ掛けで 嘲笑(わら)いながら忍び寄る 私は人形になりたかった とても切実に 狂おしい程に 完成された美しい存在 苦しみも悲しみも痛みも無い いつも微笑みを浮かべて座っているあの存在に 私は事あるごとに憧れを抱いた 「人形になれればいいのに」 思わず呟いた言葉に 母親は慰めるようにこう言いました 「人形には何の感情もないんだよ?嬉しい事も楽しい事も、 何も感じないなんてそんなの人間じゃなくなっちゃうじゃない」と 『今の私は人って言える…?』 その思いは音を奏でることなく心に溶けていきました その時の私は 心と体の分裂を願っていました 取るに足らない、ほんの些細な事に 過剰な反応をするこの身体が 恐ろしくて堪らなかったのです 小さな感情の漣を 思いも寄らない大きな津波に変えてしまう この身体が悔しくて堪りませんでした 日常のちょっとした怒り 不安、焦燥 理解される筈のない、他人からの言葉の欠片 日常に散りばめられた、そんな小さな棘達が 私の身体を血だらけにする 鏡を見ると 何時も真っ赤な私がいました 昼夜を問わず襲い来る猛烈な掻痒感と痛み 狂い出しそうな頭を必死で抱え込みました 常に居た堪れない 落ち着くことなどできない 精神は針のようになっていました そしてどうしても耐え切れず 泣き叫ばずに居られなかった日も幾度となくありました どうして私が?? 私が一体何をしたの?? 何時終わるとも知れない苦しみに 何度も、もう楽になりたいとそればかり願いました
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