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悪魔との壮絶な戦いに、最初に大声で悲鳴を上げたのは 左目でした 瞳の奥が大きく裂け、レンズは曇り始めていました 一刻も早い手術を、という 思いもしなかった言葉が白衣を着た人から告げられました しかし思考は霧がかかったままでした 目を失うかもしれないと思っても その時の私には大きな衝撃にならないほど 未来への諦めのようなものがあったのです ある種他人事のように終わった手術と その後に待っていたのは 拷問に似たとてつもない痛み 次々と刺し込まれる 瞳の奥に焼印を押されているかのような強い光に 私はぎりぎりと歯を食い縛りました 万能ではない 人の創ったレンズによって 私は辛うじて光を失いませんでした けれど 精神も身体のナカミも 声にならない唸り声を上げ続けていたのに ずっと気づいてあげることができなかったのです 左目を救われても 私の中で悪魔はどんどん大きくなっていきました 季節は恐怖を呼びました ギンギンに照り付ける太陽も 大気を凍らせる木枯らしも 私に牙を剥いていました 心に鉛をつけている内に 感情を抑え付け 制御することを覚えました 大好きな事に次々と蓋をして 鍵をかけ封印しなければならない悲しみは 直ぐに諦めへと形を変えました 青空の下 海で思い切りはしゃげなくても 大好きな猫に触れられなくても 可愛い洋服が似合わなくても 足早に過ぎていく人々の流れの中に 1人取り残されたとしても 落ち込む隙を与えないよう 心を小さく折り畳んでいきました 何時も 窓に切り取られた外の世界をぼんやり眺めていました 何度も何度も巧妙な猟師のトラップに引っ掛かり 怪我を負い続けたうさぎは 人を信じられなくなっていきました 悪魔を倒せるからと 次々と渡された剣は 全て偽物だったのです
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