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発表会
「はい、それじゃあ16番。前にでて」
俺達の番だ。
「はいっ!」
「はぁーい」
「じゃあテーマを発表して!」
「はいっ、テーマは友情です」
「分かったわ。じゃあ始めてちょうだい!」
音楽が流れるなか俺とクロは互いに距離を保ち、吸い付くように徐々に近づきは離れる。
テーマが友情であるように離れたり近づいたりを繰り返し踊り、最後に二人で手を繋いで終わるという振り付けである。
俺達二人は友情とは、こういうものだと見せるように躍り続けた。
音楽がサビに近づくと激しく身体を動かし距離を更に縮める。
喧嘩をイメージした場面。
お互いに怒った形相で激しく踊る。
クロとの距離が近くなるにつれクロの表情がよく分かる。見ると、とても苦しそうだ。
(これは危険だ!)
そう思った時、とっさに彼女の手を握り身体をキャッチする。
その瞬間、クロと目と目が合う。
しかし、それがクロではないと俺は直感で感じた。
俺だけが知っているシロの仕草、表情でありクロからシロに変わっていたのだ。
ダンスはまもなく終わる。
シロとなった彼女は、それでも躍りを止めなかった。そのダンスは最早、友情のテーマを越えている。
クロと一緒に練習していた時と違う振り付けで最後は俺と雪が抱き合う形でダンスは終わった。
「うん良かったわ」
先生の一言で俺達は礼をし皆の中に戻る。
「良かったわぁー雪!」
拍手をしながらアカリが雪に話しかけた。
「うん、ありがと」
素っ気ない表情で言葉を返す雪。
「どうしたのよぉー雪?」
「うん、疲れちゃって」
「うんうん、凄かったものね。最後に赤井君と抱きついたのはビックリしたけど…」
「うん」
顔を赤らめ雪は答えた。無理もない。今の雪はシロである。彼女は俺に恋心を抱いている。そして俺も雪(シロ)の事が好きだ。
「さぁーじゃあ優秀賞を発表するわね」
「一番は、お姫様がテーマの須藤、斉藤、大木達よ。素晴らしかったわ」
「ありがとうございます」
アカリ達は嬉しそうに仲良く三人で抱きあった。
「二番目は友情がテーマの赤井、黒川よ。惜しかったのは友情から離れた所ね。それでも素晴らしかったわ」
「はいっ、やったなクロ!」
だが雪は首を振り涙を流していた。
「ユウト、わたし…」
「分かってるよシロだろっ?」
「うっうん」
そう言うと俺は雪に抱きついた。
「「ヒューヒュー」」
周りが冷やかす中、俺達は喜んだ。
体育の創作ダンスの発表会が終わり俺と雪は保険室にいた。
「無理しちゃったのね」
そう言ってきたのは保険室に常駐している桜井先生という女性だ。白衣を着ている先生は大人の色気を漂わせる妖艶な女性というイメージを醸し出している。
そんな桜井先生には、いつもお世話になっていた。
彼女の事を良く理解してくれている先生だ。
ベッドの上で眠る、雪。
彼女が目を覚ます頃にはクロになっているかもしれない。
「今日は帰りなさい。ちゃんと病院行くように…」
「はいっ」
少し雪をベッドで休ませた後、彼女を背中におぶり俺は病院へと連れていく。
学校を早退した俺は今、彼女をおぶり病院へと向かっていた。
「うっ、うーん」
「起きたか?」
「うん、ごめんねユウト…その重くない?」
まだクロに戻っていない。それが俺には嬉しかった。
「うんっ?シロなんて軽いかるい。それより大丈夫かシロ?」
「うん大丈夫ユウト。でも、ちょっと眠たいかな…」
「ゆっくり寝ていろ。俺がちゃんと病院連れてくから」
「うんっ、ありがとう」
シロは俺の背中に手をまわしギュッと抱きつくのであった。
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