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「僕は君を愛してる。
世界の誰にも負けないくらい。
自信を持って言える。
でもこれは避けられないことなんだ。
今晩、僕たちはドライブに出かけて、激しい雨に見舞われる。
そこでスリップ事故を起こして、君は死んでしまうんだ。
君のお腹の中の子と一緒に。
このあいだ、偶然見ちゃったんだ。
僕たちの子供。
僕には不釣合いなくらいの幸せだ。
僕も大怪我をして病室で手紙を書いている。
上手く手が使えないんだけどね。
僕のせいで君をあんな目に合わせたくない。
もうこれ以上、交通事故で大切な人を失うのは嫌だ。
両親の次は君だなんて、あんまりだ。
実はもう何度も試したんだ。
過去に戻ってやり直す方法を。
車を壊したり、ドライブの予定を変えるように過去の自分を説得したり。
けど駄目だったよ。
何をやっても君は死んでしまうんだ。
僕と関わるたびに。
だから僕はある決断をしたんだ。
僕は僕を殺す。
結果的に君を悲しませることになってごめん。
わかって欲しいとは思わないけど、これしかなかったんだ。
君を失った僕の人生なんて存在しないも同然なんだから、君を救えるなら僕の人生なんて些細なものだよ。
でも最後にこれだけ伝えたい。
僕と同じことは絶対にしないで。
君は君で幸せになって。
心の底から愛してる
大事な、僕の歩美」
手紙を読み終える頃には雨が止んでいた。
ー62年後ー
彼が一体どうやって時間を行き来していたのかは知らない。
けど、彼は間違いなく私、いや、私達を救ってくれた。
今の夫の達也は、私と私の娘を大事にしてくれたわ。
やっぱり優しいあなたの親友ね。
拓也、今日は孫達が遊びに来るの。
あなたが好きだった梔子の花を持って。
私は最後まで強く生きるわ。
だって・・・。
私は目の前の手紙に最後の一文を書いた。
「彼は勇気を出したんだから」
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