最後の手紙。

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どれだけ時間が経ったんだろう? 事件後、私はパニックになっていたせいか、警察よりも先に母に電話してしまい、母が通報した。 犯人は家から忽然と姿を消していて、足取りが掴めないらしい。 それから私は警察署の待合室のソファに腰掛け、家に夫がいることを願っていた。 早く帰ってご飯の支度しなきゃ、あの人、料理がどうしようもなく下手で、私が一緒についてあげないと指を怪我しちゃうから。 結婚する前、私の誕生日に手料理を作ってくれたけど、指が絆創膏だらけだったよ。 気付いてたんだから。 涙が止まらなくなっていた。 「すみません、来栖歩美さんですよね?」 顔を上げるとそこには、夫の職場の同僚で、とても夫と仲の良かった清水達也さんがいた。 私自身は会ったことがほとんどない。 「そうです・・・けど、」 「いきなり声をかけてしまってもうし訳ありません。ですが、拓也のことを聞いて、居ても立っても居られなくなってしまい・・・」 拓也とは私の夫の名前だ。 「いえ、清水さんが謝ることなんて何も・・・、それよりお気遣いありがとうございます。」 「恐縮です。なんと言ったらいいか、本当に・・・、犯人には、強い憤りを覚えます。どうしてこんなことをしたのか・・・、拓也は本当にいい奴で、俺にはもったいないくらいの親友だったのに・・・」 潤み始めた目と強く握られた力拳に清水さんの全ての感情が表れていた。 「私はまだ、あの人が亡くなったことをきちんと受け止めれないというか、目の前で殺されたところを見ても、まだ信じられなくて・・・」 「胸中、お察しします。当然のことだと思います。俺もまだ拓也は生きてるんじゃないかと思ってしまいます。」 もう暗くなっている外の駐車場を母が走って警察署へ入って来た。 激しい雨が降っていた。 「あ、清水さん、お仕事中だったんじゃ」 「早く帰らしてもらいました。それよりこの度はご愁傷様でした」 「わざわざ来ていただいて、拓也くんも安心してくれてると思います。あの子に会ってやってください」 「分かりました、もちろんです」 二人は遺体安置所に歩いて行った。 私は立ち上がり、ゴミ箱がある位置まで歩いて行き、バッグからある物を捨てた。 それは妊娠検査器。 今日、彼に話そうと思っていた。 なんでもっと早く話さなかったんだろう? 今日の夜、彼がドライブに連れて行ってくれるって言ってたからそのときに話そうと思っていた。 もし話せてたら何て言っただろうな。 その日は実家に帰って眠りについた。 もっとも、まともに寝れたはずがないけれど。
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