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三月三日
月船と藤堂は今年二人共四十一歳に成る。
昔は同じ釜の飯を食い、苦楽を共にもした仲で、親友と言えた。
まだ実秋が現役の頃の、二人の話をしたいと思う。
月船は良家に生まれ才覚も持った、人も羨む少年時代を送った。
藤堂は母親を早くに亡くし、病気の父親と幼い弟達を養う為、身を粉にして働きながら勉学をした。
そんな二人が実秋の配下と成り出逢う。
十九歳の時だった。
年頃の変わらない同僚達の中で、月船は目立っていた。
明るい性格に剛胆な判断力、文武に長けた良家の出、ましてや猛将軍実秋は早くから月船を重宝したから、皆月船と知り合いたがった。
しかし月船は藤堂が気に成っていた。
何時もヨレヨレの古びた着物で、昼食には握り飯のみの藤堂は、同じ位の給金のはずだった。
そして藤堂も又、実秋に重宝されていた。
月船は堪らず藤堂に話し掛け、食事に誘った。
「いや、私は外食はしませぬ故」
と藤堂が断ると月船は
「まあまあ、安くて旨い定食屋を知ってるから、たまには付き合え」
と、半ば強引に誘った。
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