建てかけの館、炎上

2/2
前へ
/146ページ
次へ
コウノトリの思惑通りの動きが、館内で起こっていた。 武士の習性で、いざという時の体制は必ず決めてある。 東の馬小屋は囮、南の街へ出て万民に逃げる姿は、実秋程の武士にも成れば見せられはしないだろうと踏み、西の崖手前の杭も囮であった。 北門の先には小川があり、橋まで逃げて吊り橋を切り落とせば、少々の時間は稼げるし、先の森まで逃げてしまえば見付かりにくかった。 コウノトリは東門に四人、南門には三人、西門にも三人、北門には十人の配置をしてあった。 橋は切ってあり、手前にはトビウオとコバンザメ、塀の隅の北面のウズシオには槍と盾を持った兵を付け、北門からの退避を完全に読み取った布陣であった。 館は炎に包まれ、火は高く踊る様に舞った。 街から火が確認出来ない距離では無かった。 眩しい程の明るさが、館周辺を照らしながら揺れうごめいた。 (ここからは時間の勝負です) コウノトリは実秋の姿を待ち望んだ。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加