建てかけの館、真夜中に響く鐘

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建てかけの館、真夜中に響く鐘

三月三日 三羽ガラスは実秋の乗る馬を確認したが、長兄の真横をすり抜けて行った。 「ちいっ!」 雁部隊の隊員は何とか馬体に刀をなびかせたが、実秋の槍によって弾かれた。 ウズシオの北面の二人も矢を放ったが、何れも実秋の小さな盾により防がれた。 後は切り落とした小川の橋の手前の、コバンザメとドビウオに任せる他は無かったはずだったが、先ず三羽ガラスの長兄が駆けた。 次いで二人の弟も全力で駆けた。 小川まではそこそこの距離がある。 追い付くまでには相当の体力を消耗し、かつ戦力として残るには、賭けに似た物があった。 三羽ガラスは駆けた。 彼等はスピードだけで無く持久力もあり、全員深追いが可能な、稀少な小隊だった。 小川の手前で待機していたコバンザメとドビウオは実秋を確認し、馬をゆっくりと進めながら刀を抜いた。 馬上の少年は盾を放り投げ、先にクナイを投げたが、コバンザメとドビウオはそれらを悉く防いで前進した。 馬上の少年金沢直順は腰にあった槍を手にし、二人の強者に向かおうとしている。 直順は、馬を止め言った。 「実秋様にこの様な狼藉、何故の行いぞ!」 コバンザメが 「坊やにも実秋殿にも恨みは無いが、首を頂かなくてはならん。御免」 と答えて馬の尻を蹴り、前進した。 トビウオも無言で続く。 馬の後方に居た実秋は、それを見て煙玉を投げた。 即座に月明かりだけの暗闇に灰色の煙が興り、間を遮断した。 直順は馬首を反して、小川に沿って東へ向かおうとした。 西側は絶壁が広がっていたからだ。 コバンザメとドビウオは、背中に差してあった大きな扇を取り出し、それを扇いで煙を散らそうとした。 実秋の乗った馬が、向きを変えた時である。 三羽ガラスの長兄が、飛び込む様に実秋の背中に、入魂の太刀を浴びせた。 直順は急ぎ槍を長兄に照準したがその時、三男が飛び上がって直順の首を跳ねた。 ほぼ同時に次兄が、斜めに成った実秋の首をも跳ねた。 それを遠眼鏡で確認していたコウノトリは、鐘を高く持ち上げ、小槌で強く叩いた。 撤収の合図が丘と夜空に響き、それは五回程繰り返された。
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