三羽ガラス真夜中の調べ

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三羽ガラス真夜中の調べ

ニ月十ニ日 来た仕事は身内抹殺の件だった。 長兄が代表して、コウノトリの手駒のシロに請負いの返事をした。 するとシロは長兄に、ターゲットのシラサギの似顔絵と作戦の手紙を渡した。 シロが帰ると次兄は 「ああ、この顔ならば見た事があるぜ。そうかこいつがシラサギか」 と、似顔絵をひらひら揺らしながら言った。 夜が来た。 約束の場所に着くと、コウノトリが立っている。 彼等が幾度となく見て来た光景だった。 コウノトリは言う。 「まだ荷支度に手間取っていて、出て来そうにありません。どうやら東へ逃げる様ですから、次兄殿と三男殿は、直ぐ東の橋で待機願います」 三男は二度頷きながら思った。 (うん、東へ向かうのが確かなら、人気の無い橋付近の待ち伏せが一番だ。東へ抜けるには、必ず通る場所でもある) 二人は橋へ向かった。 日が変わる頃に成ってもシラサギは出て来ない。 長兄の気が削がれて来た。 少し離れた所に居たコウノトリはそれを察し 「まぁ暖まって下さい」 と、何処からか熱い茶を持って来た。 「かじかんで手元が狂っては、困りますからね」 と付け加えもした。 長兄は疑問をふと口にした。 「何故逃げるなら、急がないんでしょうか…」 コウノトリは黙っている。 長兄は野暮な事を聞いたと、口をつぐんだ。 少しの沈黙の後コウノトリは 「ではお願いしましたよ」 と言って、又距離を置いた。 コウノトリは過去の調べで、シラサギという人間を大雑把に把握していた。 ここの稼業は副業を認めていたが、表で副業をしている者は、裏と似た様な事をしたがらない傾向があった。 しかしシラサギがしていたのは、金貸しだった。 それも色の濃い金貸しで、散々の有り様をひけらかしていた。 (馬鹿な金貸しも、馬鹿な裏稼業人も、長生きしないという事でしょう) シラサギは暗い家の中から、静かに出て来た。 人を殺した後にするシラサギの形相を、コウノトリは何度も見てきていた。 (女房子供を殺しましたか) コウノトリは目を細めてシラサギを見た。 長兄は夜目が酷く利く。 シラサギが東の方へ足を向けた瞬間確信し、先回りした。 (荷物が多い。この世からの別れには、未練たらたらと言った所だな) 足が最も自慢の三羽ガラスの長兄である。 音も発てずに走る姿は、黒猫にも見える。 人気の無い橋に辿り着き、先ず次兄が飛び出した。 呼応したかの様に二人も飛び出した。 シラサギは気付いた。 (待ち伏せされた!) 遅い。 既に次兄が大きく斜めに斬り裂き、三男は心の臓に刀を貫いていた。
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