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「藤堂さんが生き残ったのには、訳があると思うんですよ。賊は役人に確り逐わせますから、藤堂さんは生き残った事を運命として、生かして欲しいんです」
白井は藤堂の手を取り続けた。
「山梨藩と長野藩の抗争は他藩に波状し、その上には西の帝の報道から、東西で不穏な動きのある昨今、私達は藤堂さんの様な方を必要としています」
白井は此処横須賀に、個人的に来ていた。藩の名目は無くとも白井が押せば、藤堂のポストは約束されるだけの力があった。
まだ若い自称の白井晴は、藩主と幼なじみで国の中でも活躍している、大きな瞳の武者だ。
「傷も良く成り、退院の日も決まったと聞きました。お帰りをお待ちしております。気持ちが固まったら、連絡下さいね」
白井は席を立ち、深々と礼をして去った。
藤堂は白井の持って来た《かちや》の饅頭を手に取った。
日付が今日の物だった。
行列の有名なかちやの饅頭を買うのに、白井自身が並んだのかとふと思った。
(まさかな。部下に買わせたに決まってるじゃないか)
藤堂は苦笑した。
多忙な白井が、自身で早朝から並び購入した饅頭だと、藤堂が知る事はこの先も無い。
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