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コウノトリの名
四月十五日
コウノトリは名前を持たない。
いや名前が沢山あると言っても良い。
少年期から裏稼業に入った彼に身内は無く、誰も本当の名を知る者は無かった。
時は遡り、コウノトリが八歳の時の話をしようと思う。
父親は仕事が続かず、酒を呑んでは暴れていた。
矛先はコウノトリにも向けられたが、母親は庇った。
逆にコウノトリが母親を庇うと母親は激怒し、結局母親が暴力を受けていた。
ある日父親の暴力はタガを無くし、母親はそれにより死んだ。
コウノトリは逃げようとしたが捕まり
「お前を殺して俺も死んでやる!」
と父親は拳を投げ付けた。止める気配は無い…。コウノトリは火鉢の粉を掴み、父親の顔にぶちまけ、家を飛び出した。
父親の罵声を背に受けながら、何処に向かっているかも判らぬまま、血塗れで走った。
(遠くへ…)
何処でも、父親の来ない遠くへ行こうと思った。
民家を横目で見ながらも、食べ物を乞う行為は、小さなプライドが許さなかった。
どの位遠くへ来たろう。
コウノトリは飢えと高熱で倒れた。
街中ではあったが、人は遠巻きに避けて通るだけだった。
(大人なんて大嫌いだ)
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