コウノトリの名

1/3
前へ
/146ページ
次へ

コウノトリの名

四月十五日 コウノトリは名前を持たない。 いや名前が沢山あると言っても良い。 少年期から裏稼業に入った彼に身内は無く、誰も本当の名を知る者は無かった。 時は遡り、コウノトリが八歳の時の話をしようと思う。 父親は仕事が続かず、酒を呑んでは暴れていた。 矛先はコウノトリにも向けられたが、母親は庇った。 逆にコウノトリが母親を庇うと母親は激怒し、結局母親が暴力を受けていた。 ある日父親の暴力はタガを無くし、母親はそれにより死んだ。 コウノトリは逃げようとしたが捕まり 「お前を殺して俺も死んでやる!」 と父親は拳を投げ付けた。止める気配は無い…。コウノトリは火鉢の粉を掴み、父親の顔にぶちまけ、家を飛び出した。 父親の罵声を背に受けながら、何処に向かっているかも判らぬまま、血塗れで走った。 (遠くへ…) 何処でも、父親の来ない遠くへ行こうと思った。 民家を横目で見ながらも、食べ物を乞う行為は、小さなプライドが許さなかった。 どの位遠くへ来たろう。 コウノトリは飢えと高熱で倒れた。 街中ではあったが、人は遠巻きに避けて通るだけだった。 (大人なんて大嫌いだ)
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加