コウノトリ、物思い

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コウノトリ、物思い

ニ月十五日 コウノトリは決めた通り風呂を済ませると、ごろごろして過ごした。 こんなにのんびり過ごす事は、稼働時間の長い彼には珍しい。 時間があると人は、物思いしてしまう事がしばしばで、やはり彼とてそうだった。 (桐千代殿…) 一つ歳上の、頭の一人娘である。 叶わぬ恋でもあった。 手も足も出ない恋に、コウノトリは長く患っていた。 断ち切れないでいるのは、桐千代が未だ独り身だからである。 桐千代が慕った過去の男性は頭が気に入らず、散々な目に合うか殺されるかして、彼女の前にはもう居ない。 頭も負けじと見合い話を度々持ち込むが、今度は桐千世が拒否の一点張りといういたちごっこだった。 美人で気が強く聡明。 箱入りで大切に育てられたからか、性格も良い。 コウノトリは少年時代から憧れていたが、到底許されなかった。 頭は富豪で、娘が苦労も不自由も無く過ごせる場をのみ、嫁がせる事を許していたからだ。 「はぁ…」 当然無理である。 (もう忘れる事です。たかが片想いに何時までも情けない…) 《もう忘れる》。コウノトリは数え切れない程、今までそう繰り返し決めている。 鋼の采配で名軍師ばりの仕事をする彼だったが、どうも恋には不器用らしい。 頭は死に損ないのコウノトリを拾い、教育した人物だ。 コウノトリは物思いしない為、慣れない酒を流し込んで眠った。
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