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建てかけの館、内情編
三月三日の昼間、建てかけの館は太陽に照らされていた。
快晴。
望月実秋は風邪の為床に臥していた。
傍では金沢という若い武士が世話をしていた。
「もう儂は大丈夫だ。下がってて良いぞ」
実秋は言ったが、金沢は心配だと返し、傍から離れようとはしなかった。
そんな館に単身訪ねて来る者が居た。
《月船小五郎》
「お見舞いに参りましたぞ。実秋様好物の干し芋と、早咲きの桜を持って参った」
八重歯を見せながらドカドカと館に入り、我が家の様に実秋の部屋へ向かった。
その途中藤堂と出会し、月船は更に上機嫌に懐かしい友と挨拶を交わした。
「藤堂が実秋様の傍に居て、俺は安心している。藤堂は城付きが似合うておろうが…しかし実秋様をくれぐれも頼む」
月船は焼けた肌に白い八重歯を覗かせながら、古い友に頼んだ。
藤堂は任せとけと、やはり笑顔で答えた。
月船は真顔に変え、藤堂に耳打ちした。
「城では昨今、奥方様の後ろ楯がやたら勢力を伸ばしている。幹部諸将に権限のある実秋様には、まだまだ元気で居て貰わねば困るのだ」
憂う月船に藤堂は
「うむ。我等も未だ途上の人。個人的にも実秋様には恩義も深く、長生きして貰いたいものだ」
と答えた。
「俺は二日程泊まって行く予定でいる。藤堂や皆々と積もる話もあるからな」
藤堂はそうかそうかと喜び
「早く実秋様に顔を見せてあげなされ。喜ばれますぞ」
と月船を急かした。
月船は慌てて向かい、藤堂は背中を微笑みで見送った。
「ん?」
ふと窓に目をやった藤堂は、空に浮かんだ雲の中に、暗い空間を見付けた。
そこが異様に光って見える。
(何だあれは…雷か…?)
気になり凝視していると、藤堂の背中に悪寒が走った。
(う…っ…)
藤堂は直ぐその光から目を離したが、横目でもう一度確認した。
冷や汗が額を伝った。
(何と…嫌な雲よ…)
藤堂はその雲を睨んだ。
古から、空は人の世を占うと言う。
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