コウノトリ、薄暮の調べ

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コウノトリ、薄暮の調べ

二月十ニ日 コウノトリは名前を持たない。 いや名前が沢山あると言っても良い。 少年期から裏稼業に入った彼に名前は無く、誰も本当の名を知る者は無かった。 「無理ですよシラサギさん、貴殿は50のノルマを越えてませんから、抜けたいなら覚悟して下さいな」 コウノトリは帳簿をパラパラと捲りながら言った。 シラサギは顔を青くして頼む。 「そこを何とかコウノトリさんの力で。頭はコウノトリさんの親代わりなんでしょ?俺は命を狙われてんだよ。逃げなきゃ殺される」 コウノトリは取り合わない。 「いえ決まりは決まりですからね」 と帳簿を閉じ、いそいそと他の仕事をし始めた。 シラサギは荷物を開け、中の金を見せた。 「これで何とか!足りないなら持って来るから!幾ら欲しい?」 ざっと一千万瓶はあるだろう金をちらりと見たコウノトリは、一層さめざめとした表情でゆっくり言う。 「持って帰って下さいな。それより頼んである仕事、宜しくお願いしますよ」 シラサギは今度は顔を赤らめ、部屋を出た。 (腕は悪くない。しかし…一々愚かさを露見する方ですね) コウノトリは決めた。 そして手駒のクロを呼び、シラサギを尾行させた。 次に手紙を三通したため、コウノトリの印を押し、手駒のシロを呼んだ。 「すまないがこれを三羽ガラスに届けておくれ」 シロは返事をして受け取ると、直ぐに向かった。 三羽ガラスには機動力があった。 捕り物ならばお手の物だった。 (シラサギは今夜逃げます) とコウノトリは踏んでいる。 コウノトリはこの件を文書化し印を押して、頭に報告に出向いた。 (全く仕事が片付きませんね。今夜も残業ですか…) そうして苦笑した。 翌日、シラサギは死体で川に浮いていた。
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