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鬼に喰われし者
山中の小さな村。そこに断末魔が響いたのは三年前のことである。
屋根の藁は腐り、戸は立て付けが悪く夜はすきま風に震える。山に入って猪を狩り、小川からは小魚を拾い飢えを凌いでいた小さな小さな村。そこに一匹の鬼が現れたのは三年前。逃げまどう人を追い詰め、頭から噛みつき首を引きちぎり、ぐちゃぐちゃと音を立てて噛み締めた。
飢えていたのであろう。僅かな人々に次々と牙を立て、村のほとんどの者を腹に収めた。その鬼の目には涙があった。己がどれ程飢えていたか、全員を食らったと思った直後に耳に響く幼子のすすり泣き。
声がする掘っ立て小屋に入るならば、そこには痩せこけた小さな女の子が小屋の隅に踞っていた。
「私も……食べるよね?お腹空いてるもんね。お父もお母も食べられたから、私はもう生きていけないから……」
そう笑ってみせる女の子に鬼は膝をついて頭を下げた。
「すまぬ!腹が減って仕方なかったんだ!子がいると分かっていれば、皆は食わなかった!」
女の子は、ぐずぐずと涙を拭う。
「いいの。人だってお腹空くもの。猪も狩るし魚も捕る。人だけ食べられないなんておかしいもの……」
強がるようにひくひくと口許をあげる女の子を鬼は引き寄せて抱き寄せた。
「すまぬ……。生きれるだけ食うつもりだった。せめて、お前が大人になるまでは側にいよう」
「そして大人になった私を食べるの?」
「わしにも鬼として誇りがある。強き者の誇りがある」
そんな出会いだった。
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