サント・マルスと大陸の覇王 巻の4

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その32.寄り添おうとする国  何も進展がないままトッドは在メリアナ領事館を後にする事にした。 ナムーラ王子も何か情報があれば提供すると言う約束をし、彼も領事館を 立ち去ろうとした。  外に出た途端、シークレットサービスがトッドを庇い銃を構えた。 植え込みの陰で何かが動く気配がする、かと思ったら覆面をした数人が いきなり銃口を向けてきた。「うっ・・・。」 シークレットサービスの方が少しばかり早かったらしく、覆面の者達は 銃弾を受けた脚を庇い、その場から立ち去った。「伏せて!!。」 驚いている余裕はなかった。すぐに手榴弾が爆発した。トッドは明らかに 自分が狙われている様子を目の当たりにし、息を呑んだ。 「大丈夫ですか!!。」 ナムーラ王子が側近に庇われながら何とかトッド達の方へ近づいて来た。  再び銃声が鳴った。「あうっ・・・。」 なんと、トッドを庇ってナムーラ王子が銃弾の標的になってしまった。 撃たれた肩から血が噴出している。「王子!!、ナムーラ王子!!。」 トッドも懐から銃を取り出し、覆面の者達の前に構えた。咄嗟に シークレットサービスがトッドとナムーラ王子を庇った。しかし、左後から 銃口を向けている者がいた事に誰も気づかない。トッドがあっと思った時には 銃弾が発射された後だった。 「・・・撃たれた・・・。」 誰もがそう思ったが、なんと銃弾は弾き返され、撃った者の手の甲に当たり、 貫通した。  トッドは静かに目を開けた。キラキラと光る物体が目の前に現れ銃弾を 弾き返していたのだ。「女神ヒヒポテ・・・。貴女が私を・・・?。」 頭の中で美しい声が響く。 「貴女はこの世界を救う為の救世主。貴女の意志があるから私はこの世界を 救えるのですよ。」  再び手榴弾が投げ込まれた。何とか爆破の範囲から逃れようとしたが 傷ついた王子を見捨てる事は出来ない。間に合わないと思った瞬間ヒヒポテは その身をまるでゼリーのように不定形な形に姿を変え、トッド達と王子を 包み込んだ。  ヒヒポテの身体は手榴弾の爆発さえも弾き返し、覆面の者達は皆爆破に 巻き込まれた。その隙にトッド達と王子は王子の側近達の手によって領事館の 中へ戻された。  「・・・だ、大統領。お怪我は?・・・。」 側近達に怪我の治療をされながらもナムーラ王子はトッドを気遣う。 「私は大丈夫です。ありがとう・・・それに、ごめんなさい。私の為に。」 「・・・本来、戒律では私は異性に触れる事を禁じられている身。だが、 この世界を救う為、戒律を破る覚悟でこの場に臨みました。神の教えに 逆らう事は死を意味する。 しかし貴女が仰る『人類の輝かしい未来』の為にこの命を掛けてもこの星を 守りたい。」 痛みに苦痛を浮かべながらも彼の目からは強い意志を感じた。命を粗末にして欲しくはなかったが、彼のその覚悟にただ頷くしかなかった。  ナムーラ王子の側近の一人が彼に耳打ちをした。「通せ。」 側近は入り口の方へ戻っていった。やがてアルデキア軍隊の軍人が数人 部屋へはいって来た。「王子・・・お怪我は?。」「大丈夫、かすり傷だ。」 側近の一人が言いにくそうに話し始めた。 「・・・実は、大統領から不思議な物体が現れ、我々はそれに助けられたの です。」 「不思議な物体?。メリアナの大統領は魔法が使えるのか?。」 「あ、いえ、とんでもない・・・。」 我らメリアナの守護神ヒヒポテののご加護によるもの。と、言おうとしたが、 ヒヒポテのの事は今ここで言わない方がいいだろう。そう思い、気付かな かった振りをした。 「・・・先の覆面の者達、やはりテロリストなのでしょうか。」 トッドは質問した。「多分、そうだと・・・。」 アルデキアの軍人の一人が答えた。 「アッシリの者なのか?。」「やはり大統領を狙って・・・。」 シークレットサービスの者達も思わず口にする。  少し沈黙が流れた。 「アッシリだけではない。中央大陸の国々の中には少なからず合衆国を敵と 見なしている国も幾つかある。」 「・・・やはりそれは武力で内乱を弾圧した事によるのでしょうか?。」 「恐らく・・・。」 するとナムーラ王子が話し始めた。 「我ら中央大陸の人間が唯一信じる神アッサーラはは、厳しい戒律の元 永きに渡り皆に信仰されてきた。しかし、時代と共に戒律は少しずつ崩壊 していった。過酷な自然条件の中生きていく為のルールではあったが、文明を 手に入れた我々にとってその戒律は形だけのものになりつつあった。だが、 未だ戒律を守ろうとする者達はメリアナやユーラントの文明生活を拒絶し、 自分達の戒律を守ろうと必死なのだ。内乱や暴動はその表れ、戒律を守ろうと する者と、それに反発する者との争いは常に絶えない。そこへ、合衆国を 始めとする連合軍の軍事介入により、それらの国々はアッサーラ信仰の 敵と見なされるようになった。だが、最終的にこの星を救えるのは我々 人間なのだ、そう思ったから、トッド大統領、私は・・・いや、我が国は 貴女に協力を申し出た。」 最終的にこの星を救えるのは人間・・・。その言葉にトッドは改めて息を 呑んだ。
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