1118人が本棚に入れています
本棚に追加
その後の話 『梅香る君』 5
【R18】
「洋月……痛かったな。ここ……」
丈の中将が俺の尻を確認しながら、そっと顔を近づけて来た。
「んっ……」
驚いたことに……傷を労わるように癒すように、丈の中将の舌先が動いていく。引っ掻かれた爪痕の傷に沿って丈の中将の舌先が俺の尻をじっとりと舐めあげていく。風呂殿はこんなに明るいのに、まじまじとそんな部分へ視線を浴び、恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。腰を落とされ双丘を左右に開かれ、その奥の蕾にまで舌が達する。
「あっそんな場所まで! だっ駄目だ!」
「動かないで、じっとして」
「んっ……んっ」
これは傷が疼くのではない。違う場所がどんどん熱くなってしまう。萎えていたものがどんどん立ち上がっていくのを感じると、丈の中将の手が回り込んできて、俺の屹立したものをそっと撫でてくる。
優しく撫でられただけなのに、それなのに昼間、兵部卿によって握りつぶされそうな位強く触られた部分に鋭い痛みが走った。痛っ……でも……声を出してはいけない。俺がこんな状態だということを知られたくない。
「……ああっ…痛っ!」
だが揉まれた瞬間に思わず零れてしまった呻き声。途端に丈の中将はその手を止めて、心配そうに俺を覗き込んだ。
「一体ここはどうした? 何故こんなに鬱血しているのか。宮中で一体どんなひどい目に遭ったのか、きちんと話してくれ」
何も答えられない。とても俺の口からは言えない。
「……」
そんな気持ちを理解してくれたのか、それ以上問い詰めることはなかった。
「……許せない。私の洋月に、何て酷い仕打ちをするのだ」
「丈の中将……すまない」
かつて牡丹に抱かれた時、いつも言われていた。
お前が最初に誘った。
お前がその目でその口で誘うからだ。
お前のその淫乱な躰がいけないのだ。
そんな悲しい言葉を思い出してしまった。
「何故謝る? 洋月は何も悪くないのに」
「……俺は悪くない?」
本当に丈の中将は俺を信じてくれる。いつだって、どんな時だって。
「丈の中将っ、俺を今すぐ抱いてくれ。あの感触を忘れたいっ。悔しいよ。あんな人に躰をいいように触られて気持ち悪かった。痛かった……うっうっ……」
涙にまみれながら、丈の中将の男らしい躰に必死にしがみついていた。幼い子のように女々しく弱弱しく。
もっと強くなりたい。
男らしくしっかりしないと。
そう思っているのに涙も嗚咽も止まらない。
こんなにも丈の中将を欲していることを、もう隠せない。
「そんな可愛いこと強請るなんて。あぁもう寝所まで待てない。ここで今すぐ抱いてもいいか」
「そうして欲しい」
いつの間にか着ていた白い肌小袖は躰から離れ、風呂殿の床に敷かれた。そこへ全裸に剥かれた俺は静かに寝かされた。優しく覆い被さって来る丈の中将の逞しい躰とても温かい。労わるように躰中を撫でまわされ、傷ついた部分にはそっと印を押すかの如く、唇を押し当ててくれる。
その度に躰がトクントクンと反応していて、素肌が赤く染まっていくのを感じてしまう。恥ずかしくて思わず顔を手で覆い隠すが、その隙間から見える風呂殿は白い蒸気に包まれ、桃源郷のような霞帯びた幻想的な場所へと変わっていた。
「んんっ……ふっ…ん」
両方の乳首を交互にちゅっちゅっと吸われる。ツンと尖った部分を指先で捏ねまわされ、引っ張ったり押したりという心地良い刺激を与えられる。それから深い口づけをされる。角度を変えながら何度も何度も、花弁が降り積もるように重ねられていく。頭から足の先まで躰中が丈の中将の熱い想いで埋め尽くされるようで痺れてしまう。
「あぁ……んっ」
丈の中将の指先が蕾に侵入してくると、全身が小さく震え出し、躰が心が君を求めて止まない、君が欲しい!
クチュクチュとした卑猥な水音が風呂殿の密室に響いていく。鬱血した痛みをも忘れ固くなった俺のものからは花の蜜が溢れ出し、それは腹へとぽたぽたと滴となり零れ落ちてくる。次から次へと止まらない。
「艶っぽい顔をしている。そそられるよ。君は頬を梅の花のように染めて……あぁ可愛い……そろそろ挿れるよ」
「んっ」
ぐっと衝撃と共に躰が丈の中将の熱く猛ものを受けいれる。ずぶずぶと入って来るものを、俺の躰は待っていたかのように絡みつくように受け止める。
「んんっ……あっう!」
「洋月、私は君に夢中だよ。このまま朝まで抱いていたい。ずっと私の腕の中に隠しておきたい程愛おしい」
上下に動く逞しい胸をぼんやりと見つめているうちに、緊張の糸がほぐれ、深い眠りへと誘われていく。丈の中将の律動によって揺さぶられるのが気持ちいい。まるで揺りかごのようだ。こんなに安らかな気持ちになるなんて……
「はっ……はっ」
「んっ……くっ」
俺の躰に飛び散る白い飛沫によって、共に果てたのを感じる。これは蒸気なのか汗なのか涙なのか。それとも……何もかも視界は霞んでいく。
溺れていく、こんなにも君に。
「次は寝所へ行こう。続きはそこでだ。まだ眠ってはいけないよ」
「ん……」
そう言って横抱きにされたまま寝室へと移動した。寝室に入ると梅の香りが充満していた。そうか出かけに俺が庭の梅を一枝手折って飾っていたのだ。
「良い香りだ。今宵の洋月の素肌のにおいと同じだ」
「これは梅の香りだ。そんなはずはない」
「食べてしまいたい。君のその口を」
そう言いながら、丈の中将に再び口を吸われる。
また最初からを繰り返していく。二人で上りつめては果てて……何度も何度も我を忘れて求め合ってしまった。
丈の中将……嬉しいよ。こんなにも俺を求めてくれ、愛おしんでくれて。どんなに嫌なことがあっても、君がいてくれるから耐えられる。生きていける。
君がいる世の中が愛おしい……生きていて良かった。
そんな想いと共に、甘い梅の香りのする夢と現を行ったり来たりした。
****
暁の時にふと目覚めた。朝は別れ……いつもそう感じるのは、一晩中重ね合った肌を離さないといけない時だから。いつだって少し切なく寂しい気持ちが込み上げてくる。
夜明けまで空に残る月は、まるで名残惜しい俺の心のようだ。枕元の後朝の歌には、昨日部屋に飾って置いた梅の枝が添えられていた。
「花の香に 誘われ見れば きみ姿 抱けどせつなく 朝も乱れて」(大伴家持)
現代語訳……香しい花の香りに誘われてきたのですが、あなたの匂いだったのですね。あなたの寝乱れた素肌のにおいに思わず抱きついてしまいました。その官能的な香りは朝までわたしを眠らせませんでした。
「まったく丈の中将は……」
恥ずかしことを……そう思いながらも嬉しくて、梅の香りの移ったその文をきゅっと胸に抱きしめると、花が咲くような華やかな幸せを感じた。
「梅香る君」了
後書き
****
こんにちは、志生帆 海です。梅をモチーフに妄想を羽ばたかせてみました。今日はひたすらに甘い二人でしたね。
生きていると理不尽な目にあうことも多いです。
悔しいけれども、何も言えないこともある。言い返せないこともある。
グッと我慢して耐えなくてはいけないこともある。
でも誰かひとりでも寄り添って信じてくれる人がいれば、世界は変わる。
そんなことへの癒しになれば嬉しいです。
私はいつも自分自身への癒しも込めて、物語を書いています。いつも読んでくださってありがとうございます。また季節の移ろいと共に、平安時代の二人のSSをお届けできたらと思っています。
最初のコメントを投稿しよう!