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翌日
今日は私にとっても、夢に向かって踏み出す日。そう、野球部のマネージャーとして入部届けを出す日である。
ただ高校に入って分かった事が一つある・・・
私は一抹の不安を感じながらグラウンドの隅に立っていた。
校舎側からユニフォームを着た男性が歩いてくる。
監督だ
私は監督の所に走って行く。
「監督。すいません私マネージャーとして入部したいので、よろしくお願いします。」
入部届けを差し出しながら、監督に伝えた。
少し困った様な顔をして
「うちはマネージャーを入部させてないんだ。悪いね。」
そう、心城学園野球部は、女子マネージャーの入部を許可していない。
ただ、このために心城学園に入学したのに、諦める訳にはいかない。
「分かってます。でも絶対に入部したいんです。
そして一緒に甲子園で優勝した時にグラウンドに居たいんです!」
「気持ちは分かるが、甲子園にいけるかも分からないし、それに女子をベンチに入れるつもりも無い。」
女子だから?
悔しい、悔しいよ
涙が出てきた。
「絶対に諦めません!」
もう涙が止まらず、このままでは話が出来ないため、その場から逃げる様に走って去って行った。
*******
(耕太)
奈緒が走ってグラウンドを去って行く姿が見えた。
確か今日、入部するって言ってたような?
何があったのか、監督の所まで走って行き、
「どうしたんですか?」
「さっきの女の子がマネージャーを希望してきたんだよ。」
?
「ダメなんですか?」
「うちは女子のマネージャーは、許可していないんだよ」
「何でですか?」
「以前、男女関係になって、妊娠して廃部の危機に陥った事があったらしい。その時に学校と女子マネージャーを入れない約束をしたらしい。」
「それって、いつの話ですか?」
「詳しくは分からない」
「奈緒は、そんな子では無いし。それって女子に問題があったんですか?」
「まあ、土曜日に流(ナガレ)コーチに聞いてみるよ。コーチは心城学園の元生徒だし、もしかしたら分かるかも知れない。」
流コーチは、土日にコーチをしに来てくれる、心城学園の野球部OBだ。
まだ会った事は無いのだが、10年以上前の卒業生で、土日は殆ど休まず野球部に来るらしい。
そんな昔の話なら何とかなるかもと思いながら、監督との話を終えた。
練習が終了した。
いつもの様に、勝利と帰り、亀戸を降りてマンション前まで来ると、奈緒の姿があった。
奈緒・・・
オレ達を見て、泣き始める。
奈緒の所に走って行き
「大丈夫だ!オレが絶対に何とかするから!」
「耕太・・・」
「たまには俺を信じろよ!」
涙を流しながら、俺を見て
「うん。信じる。ありがとう」
奈緒が初めて真剣な表情で、俺に頼ってくれた。
よし絶対に奈緒をマネージャーにするぞ!
奈緒と勝利に監督が言っていた事を伝えて、家に帰ったのであった。
(土曜日)
いつも通り、ランニング、準備運動、キャッチボール、トスバッティングまで行う。
トスバティングが終わる頃、見慣れないユニフォーム姿の人がグラウンドに入ってくる。
先輩達が挨拶をする。
あっあの人が流コーチかあ
年齢は30歳ぐらいで、身長は高くてがっしりした体格だ。見た目は高校生の俺が言うのもおかしいが、真面目そうな人である。
そしてその後に、監督がグラウンドにやってきた。
監督がノックをすれば、ノックを受けてる選手に近くから指導して、打撃練習でも実技を見せながら熱のこもった指導をしてくれた。
教え方も丁寧であり、実に分かりやすい。
監督に勝利の球を受けに行くように言われて、投球練習用のブルペンに向かう。
すると流コーチもブルペンにやってきた。
軽く立ったまま勝利の球を受けてから、座りミットを構える。
コーチは審判の様に、俺の後ろで勝利の球を見る。
勝利がミットに向かってストレートを投げると、後ろのコーチが
「監督から聞いていたけど、アンダースローで凄い球を投げるね。」
コーチの言葉に、まるで自分が褒められたかの様に嬉しくなる。
「はい。でももっと凄い球を投げますよ。」
そして何球か投げ込んだ後に、トルネード投法でストレートを投げ込む。
ズシンと勝利の球がミットに収まる。
「・・・・秋山君」
「はい。」
「ちょっと受けさせてくれないか?」
「コーチ大丈夫ですか?」
「うん。僕も高校の時にキャッチャーやってたんだよ。それに今までも土日に他の投手の球を受けてるから大丈夫だよ」
コーチにミットを渡すと、
「まだミットが固いかな?」
「実は既に2個目のミットなんです。去年の夏に買ったミットが傷んでしまったので」
「1年で?」
勝利を見ながら、
「アイツともう一人の化け物の球を受けていたんですから、しょうがないんですけどね」
何を言っているのか、不思議そうな顔をした。
コーチは2、3度ミットを拳で叩き座った。
「さあ小野君、思いっ切り投げていいぞ!」
勝利がコーチのミットを目掛けて投げ込むと、コーチのミットに収まったかと思った球がミットから溢れた。
「ごめん、ごめん」
と勝利に球を返した。
そして再度、勝利がミットを目掛けて投げ込んだ。
すると、またミットから球が溢れる。
「凄い球だね。思った以上に手元で伸びてくる」
とミットを渡される。
勝利はその後もトルネード投法で10球程、投げ込む。
そしてカーブ、スライダー、シュートを投げ込む。
「ストレートと横の変化は抜群だね。これだけで甲子園を狙えるよ」
そして、ナックルのサインを出す。
勝利がサイン通りナックルを投げ込んだ。
ユラユラと揺れて、ベース前でストンと落ちる。
「フォーク?」
「いえ、ナックルです。」
「ナックル?あんな背が小さいのに?」
「親の遺伝とかやらで、アイツの手は大きいんですよ。」
コーチが興奮しているのが分かる。
「行けるぞ!本当に行けるぞ甲子園」
コーチの目は少年の様に輝いていた。
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