第2章 最高の仲間達

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翌日 今日は私にとっても、夢に向かって踏み出す日。そう、野球部のマネージャーとして入部届けを出す日である。 ただ高校に入って分かった事が一つある・・・ 私は一抹の不安を感じながらグラウンドの隅に立っていた。 校舎側からユニフォームを着た男性が歩いてくる。 監督だ 私は監督の所に走って行く。 「監督。すいません私マネージャーとして入部したいので、よろしくお願いします。」 入部届けを差し出しながら、監督に伝えた。 少し困った様な顔をして 「うちはマネージャーを入部させてないんだ。悪いね。」 そう、心城学園野球部は、女子マネージャーの入部を許可していない。 ただ、このために心城学園に入学したのに、諦める訳にはいかない。 「分かってます。でも絶対に入部したいんです。 そして一緒に甲子園で優勝した時にグラウンドに居たいんです!」 「気持ちは分かるが、甲子園にいけるかも分からないし、それに女子をベンチに入れるつもりも無い。」 女子だから? 悔しい、悔しいよ 涙が出てきた。 「絶対に諦めません!」 もう涙が止まらず、このままでは話が出来ないため、その場から逃げる様に走って去って行った。 ******* (耕太) 奈緒が走ってグラウンドを去って行く姿が見えた。 確か今日、入部するって言ってたような? 何があったのか、監督の所まで走って行き、 「どうしたんですか?」 「さっきの女の子がマネージャーを希望してきたんだよ。」 ? 「ダメなんですか?」 「うちは女子のマネージャーは、許可していないんだよ」 「何でですか?」 「以前、男女関係になって、妊娠して廃部の危機に陥った事があったらしい。その時に学校と女子マネージャーを入れない約束をしたらしい。」 「それって、いつの話ですか?」 「詳しくは分からない」 「奈緒は、そんな子では無いし。それって女子に問題があったんですか?」 「まあ、土曜日に流(ナガレ)コーチに聞いてみるよ。コーチは心城学園の元生徒だし、もしかしたら分かるかも知れない。」 流コーチは、土日にコーチをしに来てくれる、心城学園の野球部OBだ。 まだ会った事は無いのだが、10年以上前の卒業生で、土日は殆ど休まず野球部に来るらしい。 そんな昔の話なら何とかなるかもと思いながら、監督との話を終えた。 練習が終了した。 いつもの様に、勝利と帰り、亀戸を降りてマンション前まで来ると、奈緒の姿があった。 奈緒・・・ オレ達を見て、泣き始める。 奈緒の所に走って行き 「大丈夫だ!オレが絶対に何とかするから!」 「耕太・・・」 「たまには俺を信じろよ!」 涙を流しながら、俺を見て 「うん。信じる。ありがとう」 奈緒が初めて真剣な表情で、俺に頼ってくれた。 よし絶対に奈緒をマネージャーにするぞ! 奈緒と勝利に監督が言っていた事を伝えて、家に帰ったのであった。 (土曜日) いつも通り、ランニング、準備運動、キャッチボール、トスバッティングまで行う。 トスバティングが終わる頃、見慣れないユニフォーム姿の人がグラウンドに入ってくる。 先輩達が挨拶をする。 あっあの人が流コーチかあ 年齢は30歳ぐらいで、身長は高くてがっしりした体格だ。見た目は高校生の俺が言うのもおかしいが、真面目そうな人である。 そしてその後に、監督がグラウンドにやってきた。 監督がノックをすれば、ノックを受けてる選手に近くから指導して、打撃練習でも実技を見せながら熱のこもった指導をしてくれた。 教え方も丁寧であり、実に分かりやすい。 監督に勝利の球を受けに行くように言われて、投球練習用のブルペンに向かう。 すると流コーチもブルペンにやってきた。 軽く立ったまま勝利の球を受けてから、座りミットを構える。 コーチは審判の様に、俺の後ろで勝利の球を見る。 勝利がミットに向かってストレートを投げると、後ろのコーチが 「監督から聞いていたけど、アンダースローで凄い球を投げるね。」 コーチの言葉に、まるで自分が褒められたかの様に嬉しくなる。 「はい。でももっと凄い球を投げますよ。」 そして何球か投げ込んだ後に、トルネード投法でストレートを投げ込む。 ズシンと勝利の球がミットに収まる。 「・・・・秋山君」 「はい。」 「ちょっと受けさせてくれないか?」 「コーチ大丈夫ですか?」 「うん。僕も高校の時にキャッチャーやってたんだよ。それに今までも土日に他の投手の球を受けてるから大丈夫だよ」 コーチにミットを渡すと、 「まだミットが固いかな?」 「実は既に2個目のミットなんです。去年の夏に買ったミットが傷んでしまったので」 「1年で?」 勝利を見ながら、 「アイツともう一人の化け物の球を受けていたんですから、しょうがないんですけどね」 何を言っているのか、不思議そうな顔をした。 コーチは2、3度ミットを拳で叩き座った。 「さあ小野君、思いっ切り投げていいぞ!」 勝利がコーチのミットを目掛けて投げ込むと、コーチのミットに収まったかと思った球がミットから溢れた。 「ごめん、ごめん」 と勝利に球を返した。 そして再度、勝利がミットを目掛けて投げ込んだ。 すると、またミットから球が溢れる。 「凄い球だね。思った以上に手元で伸びてくる」 とミットを渡される。 勝利はその後もトルネード投法で10球程、投げ込む。 そしてカーブ、スライダー、シュートを投げ込む。 「ストレートと横の変化は抜群だね。これだけで甲子園を狙えるよ」 そして、ナックルのサインを出す。 勝利がサイン通りナックルを投げ込んだ。 ユラユラと揺れて、ベース前でストンと落ちる。 「フォーク?」 「いえ、ナックルです。」 「ナックル?あんな背が小さいのに?」 「親の遺伝とかやらで、アイツの手は大きいんですよ。」 コーチが興奮しているのが分かる。 「行けるぞ!本当に行けるぞ甲子園」 コーチの目は少年の様に輝いていた。
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