第2章 最高の仲間達

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土曜日の練習が終わる間際に、コーチは一足早く帰っていったが、監督は最後のランニングが終わるまでいたので、練習が終わると同時に監督の所に行く。 「監督、女子マネージャーの件、聞いてくれましたか?」 「あ〜流君が帰り間際に聞いたよ。明日の練習の時に秋山と話すと言ってたぞ」 ? 改まって話す必要があるのだろうか? (日曜日) 今日は午前練習で、9時から練習が始まっている。 昨日と同じタイミングで、コーチが来た。 コーチが到着してすぐに 「秋山君、ちょっといいか?」 と声を掛けられて、コーチの所に走って行く。 コーチはグラウンドを出て、グラウンドの外に置いてあるベンチに腰掛ける。 「秋山君も座って」 「はい」 ベンチに腰掛けた。 すると中学生ぐらいの女の子とその母親がグラウンドの端で練習を眺めている。 その親子を指差しながら 「あそこにいるのが、僕の家族なんだ。そして、君を悩ませてしまう元を作ったのは、僕達夫婦の事なんだよ」 ! 「もう15年前の事なんだけど。 そして、あそこにいる娘は、僕の本当の子供では無いんだ。」 ! 何を言っているんだろう? 「美奈子(妻)がマネージャーをやっていて、夏の大会も近かったので遅くまで練習をしていた時に事件は起こった。 練習が終わる30分前くらいに、忘れ物を取りに行った美奈子が、退学処分を告げられて怒り狂っていた二人の不良に犯された。」 「えっ!」 「そして2ヶ月経っても美奈子に生理は来なかった。 僕達は何度も何度も話し合い、もし子供が出来ていても、犯された事は伝えずに産もうと決心した。 それからすぐに、両親と病院に行って、妊娠が告げられた。 そして妻は学校を辞めた。」 「どうにか出来なかったんですか?」 「あの時は、何も考える事が出来なかったよ。お互いの両親を傷つけて、学校の事まで考える力も無かった。 最後まで校長先生は、僕では無いのではと疑っていたんだけどね。」 「でも何で僕なんかに、そんな大事な事・・・」 「うん。この事を学校に伝える時が来たと思ったんだ。 僕達のせいで悲しむ生徒を作ってはいけない。 今までは女子マネージャーを希望する生徒はいなかった。 と言うか、僕に監督が言わなかっただけかも知れないけどね。」 「それで娘さんは大丈夫なんですか?親が違うと分かったらショックなのでは?」 「でも、僕達がそれも分かった上で産んだのだから、いつかは言わないといけないんだ」 ・・・・ 監督が校舎の方から歩いて来るのが見えた。 「秋山君、行こう」 えっ俺も? 「僕も?」 「ちゃんと監督に伝える所を君も聞いた方がいいよ。この女子マネージャーを入部させない制度を終わらせるためにも、生徒もいた方がいい。僕達が作ってしまった誤った制度をね」 グラウンドの端にいたコーチの家族も監督の所にやって来る。 えっ娘にも聞かせるの? 監督も不思議そうな顔をして立ち止まる。 奥さんが監督に 「主人がいつもお世話になっています。」 とお辞儀する。 母に続き、娘もお辞儀した。 さっきは遠くで見えなかったが、奥さんも娘も、凄く上品そうで綺麗な親子だ。 そしてコーチが話し始める。 ここで父親が違う事を知らされる子供の事が気になってしょうがない。 話が進むにつれて、彼女の目に涙が溢れ出す。 ショックだろうな・・・ そして、全ての話が終わり、 コーチと奥さんは、監督に謝罪した。 すると脇から 「やっぱりそうだったのか。絶対におかしいと思ってたんですよ。」 校長が現れた。 コーチも奥さんも動揺している。 「校長、すいませんでした。」 奥さんも続いて 「あの時は、騒がせしてしまい、すいませんでした。」 「娘さんの前で言うのも何だけど、どうして産む選択をしたんだ?」 コーチが話し始める。 「例えどうであろうと、半分は美奈子の血が通っている子を殺す訳にはいかないと思ったんです。 こんな何にも取り柄がない僕だけど、美奈子を悲しませる事は出来ない。これ以上、美奈子を傷付けたく無かったんです。 子供には、僕の血は流れていないけど、愛する自信があったから産む事にしたんです。」 奥さんも涙を流し始める。 すると娘が 「パパ」 と言って、コーチに抱きついた。 「パパ、私を産んでくれてありがとう。パパとママの子で産んでくれて、ありがとう」 と、コーチに抱きついたまま号泣した。 そんな姿を見て、俺の目にも涙が自然と溢れ出た。
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