第3章 それぞれの本番に向けて

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5月1日 抗癌剤治療は4月25日に終わり、翌日から無菌室を出て個室に移った。 そして、状態を診て一旦退院となる。 ただ、副作用の影響から1週間後に退院する事になっていて、その予定日が5月2日である。 今日の午後2時に親を交えて先生からの話を聞く事になっている。 先生の話がある時間より、かなり前に父と母が病室に来ていた。 母が家に戻って来てくれる事になったのだが、今働いている職場を辞めてからウチに戻ってくる。 「パパ、ママ?」 二人して 「何?」 「また一緒に暮らせるんだね。」 母「莉乃ごめんね。今まで莉乃が苦しんでいたのに何もしてあげる事が出来なくて」 「ううん。これから今までの分、いっぱい甘えるから」 すると母が涙を溜めながら 「うん。いっぱい甘えてね。」 良かった。両親が戻ってくれて。 病気になった事で、唯一嬉しい出来事だった。 午後2時看護師が病室に入ってくる。 「先生が見えましたので」ナースステーション横の部屋に来てください。」 そして3人で看護師に言われた部屋に入ると、医師と看護師が先に部屋で待っていた。 医師からは、今のところ骨髄の適合者がいない事と、悪い細胞が消えて、これから作られる血液が正常であれば治る事を告げられる。 自宅に帰ってから気をつける事、定期的に検査を受けにくる事を告げられる。 もし正常な血液が出来なかった場合、まだ抗癌剤治療、放射線治療を行う事。 そして急変した時には救急車を呼んででも病院に受診する事を伝えられる。 そして、骨髄適合者が見つかったら、一刻も早く骨髄移植を行う必要がある事を告げられた。 急変して全身状態が悪くなり、死に至る事が考えられるからだと医師は言った。 5月5日 今日は勝利の誕生日だが、勿論まだ逢いに行く事は出来ない。 でも逢いたいなあ そんな逢いたい思いが顔に出ていたのか、母が話しかけてくる。 母「どうしたの?」 「今日、勝利の誕生日なんだけど、会えなくて寂しいなあと思っていたの」 「う〜ん。今はまだ会えないもんね。 あっそうだ!莉乃何か手作りしてみる?私が作った物を届けてあげるわ」 「でも今から何かを作るには、時間が無いよ」 母は悩んでいると、ゴールデンウィークで今日だけ休んでいる父が 「手紙でも書いたらどうだ?」 母「でもメールやLINEで、文章も写真も送り合っているのよ、確かに携帯が普及していない時は、手紙を貰うと嬉しかったけど・・・」 「でも手紙は心をこもった字で送られるから、同じ文章でも全然違うものだと思うよ。 パパも、ママから貰った手紙を今でも大事にしまってるぐらいだから」 「手紙かあ?勝利は気持ちを込めても、分かってくれないんじゃあ無いかな?」 父「いや、きっと分かるよ」 「そうかなあ?でも今から何かを作るのも難しいし、手紙を書いてみようかな」 父「小野さんの家は分かるから、書き終わったら持ってくよ。」 「ありがとう。気持ちを込めて書いてみるね」 私は部屋に行き、机に向かった。
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