第1章 高校入学

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グラウンドに着くと、ロッカーに案内される。 僕と耕太と近藤が一つのロッカーを使う事になる。 近藤「3人で一つのロッカーって、無理だろう」 2年の本田さんが、 「普通は1年にロッカーは無いんだよ。3年が一人で一つのロッカー、2年は2人で一つのロッカーを使用しているんだ。文句は言うな」 と近藤を諭しながら、語りかける様に言った。 耕太「まあ、ロッカーなんて着替えるだけの場所だから、気にするな。なあ勝利」 「まあ、そうだけど」 3人は着替え終えてグラウンドに出た。 投手は別メニューなので、エースの安川さんと3年の林さん、そして2年の川谷さんとランニング中心のメニューをこなす。 そして打撃練習になると、林さんと川谷さんはバッティング投手を行う。 僕と安川さんは、キャッチャーを呼び、投球練習を行う。 勿論僕の球を受けるのは、耕太だ。 グラウンドの端にある投球練習用のマウントに立ち、投球練習を始める。 硬球の感触を試しながら、立って受けている耕太のミットを目掛けて投げ込んでいく。 グラウンドの端なので、すぐ横がネットになっていて、これから野球部に入ろうとしている生徒達が見学している。 すると僕の横のネット越しに奈緒の姿が見えて、僕に話しかけてきた。 「これから彩香と美希ちゃんと、莉乃ちゃんのところに行ってくるね。だから先に帰っているからね。 バイバイ。 耕太もバイバイ」 と言って、走って帰って行った。 すると奈緒が走って行く方向から、こっちに向かって大きな影が見えた。 同じクラスの加藤だ。 加藤がさっき奈緒が居た場所に陣取る。 「なるほど、小野ちゃんってアンダースローなんだね。 納得だよ。確かに変則フォームで貴重だよね。」 とにやけた顔で言ってきた。 何を言ってるんだろう。 「うん。確かに変則かも知れない。体が小さいから下で勝負するんだよ」 耕太「そろそろ座ろうか?」 肩も暖まったので 「うん、頼む!」 またも加藤が独り言の様につぶやく。 「ただの変則投手なら、俺の長身から投げる球の方が威力も速さもケタ違いだよ。 小野ちゃんごめんな。俺がエースを貰っちゃうかも知れない。」 何を言っているのか、よく聞こえない 加藤の言葉を無視して、耕太のミットを目掛けて全力で投げ込んだ。 ズボッ! ミットの音が響く。 それから何球か投げ込む。 耕太「例の球行くぞ。」 夏から練習しているナックルの事だ。 小指と親指で球を掴み、残りの3本指で押し出す様に投げた。 球はユラユラと揺れながら、ミットに収まる1、2m前で、ストンと落ちた。 耕太「もうナックルは完璧だな。」 横の加藤がビックリする。 「小野ちゃん、お前って何者? アンダースローであんな速いストレート見た事ないよ。 それにナックルって何だよ」 何て返事をしていいか分からない僕は、聞こえないフリをして、ナックルを投げ込む。 そして、カーブ、シュートと投げて、再度ストレートを投げ込む。 グラウンドの方から、打撃練習をしている近藤のバットから聞こえる打撃音が響きわたる。 加藤「あっ!あれって近藤?」 「うん。彼も推薦入学者だよ。」 打撃練習をしている近藤が、また暴走する。 「おい、勝利!再戦だ。1打席勝負させろ!」 だから、チームワークを乱すなよ。 するとキャプテンの森さんが、 「小野、うるさいから1打席だけ勝負してやれ!」 もう先輩も近藤の扱いに手を焼いている。 耕太「3球だけだから、あれを試して来いよ」 冬に祐輔と練習したトルネード投法の事だろう。 3球ぐらいなら大丈夫かな。 僕はマウンドに上がる。 耕太が近藤に大声で話し掛ける。 「近藤!勝利はストレートしか投げないってよ。お前にはそれで充分だって言ってたぞ」 ! 近藤はその言葉に 「馬鹿にしやがって、叩き込んでやる。」 と物凄い形相で僕を睨む。 まったく耕太は、余計なことを言って、完全に悪者扱いだ。 僕はマウンドに立ち、足場を慣らして、投球に入る。 僕は体を反転させる様に、左膝がセンター方向に向くまで体を捻りながら上げる。 そして、左足を打者に向かって踏み込むと、ひねっていた体の回転力と普段の背筋力が右手に伝わって球に全ての力が加わる。 手から離れた球は、うねりをあげてミットに向かって行く。 ズボッ! ミットに収まる。 近藤だけでは無く、グラウンドにいる誰もが、投げ方と球の威力に驚いた。 2球目も3球目も近藤のバットは空を切った。 近藤「もう1打席勝負しろ!」 「ごめん。一球にかなり足腰に負担が掛かるから、また今度な」 と言ってマウンドから降りた。 耕太「勝利、良かったぞ。後はあれを試合で使える様にしないとな。」 「うん」 あれ?加藤の姿が無くなっている まあいいか 翌日 耕太と奈緒と高校に向かう。 電車は都心に向かう電車を利用するので、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗車する。 駅に着くと、少し降りて、また同じ数以上の人が電車に乗ってくる。 はあ、これってキツイな! そしてまた次の駅で止まると、同じ様に人が電車に乗ってくる。 あれ? 2つ目の駅で、一際デカイ高校生が乗ってきた。 加藤だ! 僕達は真ん中で吊革に踏ん張って耐えている。 僕と耕太の間には奈緒が居て、必死に倒れない様につり革に捕まっている。 そんな僕達に気づき 「おー小野ちゃん!」 と言って、ドアの近くから、周りのサラリーマンを掻き分けてこっちに向かってくる。 近藤といい、何で周りの迷惑を考えない奴ばかりが、僕の周りに集まるのだろう 結局、周りから思いっきり顰蹙を買って僕の前にやって来た。 さらに鞄からファーストミットを取り出して、 「小野ちゃん、マジで甲子園行こうぜ! もう俺も今日から部活に出る事にしたよ。 推薦入学者を見てたら、居ても立っても居られなくなっちゃったよ」 奈緒がドヤ顔で 「だから言ったでしょ!甲子園に行くって!」 電車が揺れる。 「キャー!」 耕太が奈緒を支えながら 「だから、ちゃんとつり革に掴まってろよ」 「ごめんね。耕太」 耕太の顔が少し紅くなった。
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