第3章 それぞれの本番に向けて

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第3章 それぞれの本番に向けて

5月に入ると他県との練習試合が多く組み込まれる。 このゴールデンウィークは、他県の強豪高校との練習試合が増える。 稲川実業も、今年は松原の加入で注目を浴びていて、複数の高校から練習試合を申し込まれていた。 監督が投球練習場にやって来て投手を集めた。 「今年もこれから本番に向けて、練習試合が多く組み込まれる。 県内の強豪高校との練習試合では大野は使わない。県外の高校だけ大野を使う。 相手の弱点を探る為にも球種を多様する事になるから、そのつもりで練習してくれ。 勿論、ベンチ入りする投手は、本番も全員が投げる機会があるだろうから、絶対に気を抜かないように!」 すると全員で気合の入った返事をする。 1年生を混ぜると10人以上いる投手の中でベンチに入れるのは3人なので、かなり熾烈な争いになる。 特に練習試合で結果を残さなければ、ベンチ入りは出来ない。 そして5月1日 相手は同じ地区の久我海学園、去年の代表校で甲子園の準優勝校。そして今年の第一シード校になる学校だ。 3年生の柏木投手と4番打者でキャッチャーの佐田が全国区の選手で、特に柏木はプロからも注目を浴びている。 うちの先発は元エースの黒川さんだ。 今年の久我海学園は、去年で自信を持ったせいか、一回りも二回りも貫禄と実力を兼ね揃っていた。 黒川さんは丁寧にコーナーをつくピッチングをしたのだが、久我海学園に5回までに3点を取られてしまった。 柏木も5回でマウンドを降りたが、稲川打線をヒット2本の0点に抑えた。 そして稲川実業の2番手にはサイドスローの伊藤さんが投げたが、予定の3回を持たず、2回で4点取られて降板した。 そして急遽マウンドに立ったのは一般入部の1年生の田村だった。 田村は中学では茨城県優勝チームのエースであり、妙にプライドが高く、やたらと俺にも突っ掛かって来る。投球フォームは勝利と同じアンダースローだが、どの球を見ても勝利の足元にも及ばない。 ただ、殆どの投手がオーバースローの投手なので、田村は一般入部の1年の中で、ただ一人だけ投球練習に参加していた。 その田村が1回を3人で仕留めて8回が終了した。 そして9回の表は、3年の左腕の高橋さんがランナーを出すものの0点に抑えた。 稲川打線は、2番手投手から3点を取ったものの、反撃はそこまでで終わった。 結局試合は、7ー3の完敗で終わった。 その日の夜 同室の松原は、柏木から2打席でヒット1本打ったが、試合に負けたので落ち込んでいると思ったが、妙に上機嫌だ。 部屋に戻っていつもなら、横の非常階段で下に降りて素振りをするのが日課なのだが、今日の松原は違った。 「どうした?やけに今日は嬉しそうだけど、いい事でもあったっけ?」 「いや〜、あれが前年の準優勝校って、あの程度だったら、俺達の方が強い」 「ウチは柏木から1点も奪えなかったのに、何を言ってんだよ」 「大丈夫だ。4打席もあれば俺がホームランを打ってやる。 そして、お前が0点で抑えれば勝てる。」 松原が言うと本当にそう思えてくるから不思議だ。   「本番で久我海と対戦する時は頼んだぞ。俺も完封するから」 「おう、約束だぞ!忘れるなよ」
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