第4章 いよいよ始まる

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第4章 いよいよ始まる

5月17日(土曜日) ツルツルの頭も田植えの稲の様に少しづつ黒くなってきた。 4月のテスト後に行われたクラス分けにより、美希と詩音も同じクラスになり、坊主頭が3人一緒のクラスという事になった。 美希が教室に入って来る。 「彩香おはよう」 続いて詩音も教室に入って来ると、同じクラスの生徒が詩音に挨拶をする。相変わらずの存在感である。 そして「彩香、美希おはよう」 と席に座る。 詩音が席に座ったと同時に質問してくる 詩音「莉乃の具合どうなんだろう?」 美希「本人は順調だよと、言ってたよ」 詩音「本当はどうなんだろうね」 確かに莉乃ちゃんは、心配をかけまいと、順調だと言っている可能性はいがめない。 そうだ! 彩香「勝利に聞いてみようか?」 詩音が頷き、携帯を取り出して 「取り敢えずLINEで聞いてみるよ」 (莉乃ちゃんの本当の具合はどうですか?) するとすぐに返信が返って来た。 (あまり結果が良くないみたい) 勝利からの返事を二人に見せる。 詩音「それって、抗癌剤が効かなかったって事?」 彩香「可能性はあるわ」 美希「じゃあ、また症状が悪化したら?」 彩香「同じ治療を繰り返す事になるかも。早く移植が出来ればいいんだけど・・・」 三人は肩を落とす。 そして放課後 「ねえ、彩香?」 「何?」 「奈緒ちゃんは、何してるの?この頃、全然顔を見ないけど」 「奈緒は野球部のマネージャーを一生懸命頑張ってるわよ」 「ねえ、昼食を食べながら観に行かない?」 「えっ別にいいけど・・」 美希「私は昼食は行くけど、心城学園はちょっと・・・」 ? 前にも感じたが、近藤君と付き合っている筈なのに、詩音には近藤の存在を知られたくないみたいだ。 詩音「じゃあ、取り敢えずランチに行きましょう。」 学校を出て街を歩いていると美希が近づいて来た。 「ねえ、後で相談があるんだけど、ちょっといいかな?」 「うん、いいよ。だけどランチ終わったら詩音と心城学園に行っちゃうよ。」 「そうよね。じゃあ今度でいいよ。」 詩音「何話してるの?」 美希「ううん。何でも無いわよ」 と慌てて誤魔化していた。 美希の表情は暗く、思い悩んでいる様にも見える。 そして近くのレストランで昼食を食べて、レストラン前で美希と別れた。 すると詩音が電話を掛ける。 詩音「ちょっと待っててね」 ? すると高級車が目の前に停まり、運転手が出てきて後ろドアを開ける。 詩音「これで心城学園に行きましょう」 わあー本当にお嬢様なんだ。 高級車の後ろ座席に座る。 そして心城学園の校門に着いて、運転手が開けてくれたドアから表に出た。 そして二人で校門からグラウンドに向かって歩き始める。 後ろからユニフォームを着た男性が私達を通り過ぎて、私達に気づいて立ち止まる。 「もしかして飯嶋さんの友達?」 何で分かったんだろう? 話しかけてきた男性の目線が頭を見ていたので、謎が解けた。 「はい」 と答えると、 「じゃあ皆んな同じ中学校の友達かな?」 すると 詩音「違います」 「あっそうなんだ。君達がきている事を飯嶋さんに伝えときますよ。」 「ありがとうございます。」 グラウンドでは、選手達の大きな声が響き渡っている。 詩音「高校野球って、こんな感じなのね」 詩音は今まで女子校にしか通っていないので、男子の運動部を見るのが初めてであった。 「何か汚いわね。それに臭そう」 そういう見方もあるのか? 私は男女共学で見慣れていて、普段から祐輔達の練習風景を見慣れているので、そんな事は考えた事も無かった。どちらかと言うと、その汗を流して頑張っている姿にカッコよさを感じていた。 そしてグラウンドのフェンス越しに辿り着くと、さっき話し掛けてきた人がグラウンドに入っていくのが見える。グラウンド入口の所で奈緒に声を掛けていた。 奈緒がキョロキョロと見廻している。そして私達に気づき、私達に向かって大きく手を振っている。 詩音も大きく手を振り返して答えた。 「ねえ彩香、向こうに行ってみようよ」 と言われて、奈緒が居るバックネット裏に歩き出した。 そして奈緒の所に着いて、詩音が話しかける。 「何してるの?」 「洗濯だよ。」 「洗濯?」 「うん。上級生のユニフォームを洗うのもマネージャーの仕事なんだ。この後、部室の掃除もするのよ。一緒に掃除してみる?」 すると詩音が意外な返事をした。 「うん。やってみる」 掃除なんてやった事あるのかな? 奈緒がネット越しに、「監督、部室の掃除を二人に手伝ってもらってもいいですか?」 監督は快く了解してくれた。 部室の入口に立つと 詩音「もしかして、ここが部室?」 奈緒「そうよ」 大分思っていた部屋と違ったらしい 奈緒が部室のドアを開けて中に入ると、男臭い匂いが外まで流れてきた、 詩音の足が止まる。 奈緒「どうしたの?入らないの?」 詩音は言ってしまった手前、恐る恐る中に入って行った。 詩音「うっ!」 とハンカチで鼻を塞いだ。 奈緒がタオルを詩音に渡す。 「これで口と鼻に掛かるようにして、タオルを後で結ぶと気にならないわよ」 とタオルを半分に折り、自分で実演してみせた。 詩音もタオルで口と鼻を隠して後で結んだ。 「本当だ。これなら大丈夫ね」 ほうきの使い方、雑巾の絞り方等を教えて、部室の掃除が終わった。 すると、詩音が「面白かった、また来てもいい?」 奈緒が「うん。また来てね」 あれ? 確か莉乃ちゃんの事で来たんじゃあ無かったっけ? 私は詩音に問いかける 「ねえ、莉乃ちゅんの事はいいの?」 「そうよね。つい脱線しちゃったわ。今日はこれから習い事があるから、今度また一緒に来てくれる?」 と詩音には珍しく、照れている様に感じた。 何か変なの そして心城学園を後にしたのであった。
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