一章 雪女

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一章 雪女

「はっ」 私は目覚めた、辺りは雪が降り積もっている。 仰向けになっている私の体の上には雪が積もっていて重い。 「寒い…」 あとからあとから雪は落ちて来る、周りは吹雪になり何も見えない。 「私は遭難したのかしら」 来月には高校を卒業する予定で、それまでの暇潰しに何気無く滋賀県から京都まで歩こうと、軽装でリュックを背負い山に入った、ずっと暖冬で油断していた。 さらに女一人で山に入る無謀な行為だった。 結局は道に迷い、食べ物も無くなり、もう何日過ぎたかわからない。 スマホもバッテリー切れで使えない。 「寒い…」 体は冷えきり、手足は動かない。 眠くなり眼を閉じた。 「おい」 突然に誰かが声をかけて来た。 私が目を開けると、白い着物を着た、長い髪の女が立って居た。 顔は白くて唇は紅を塗ったように赤い。 「お前は若い、助けてやろう」 「あなたは誰」 「私は雪女」 「えっ」 雪女は私を抱えるなり飛び上がった。 雪女は強い吹雪の中を私を抱えて、凄い速さで飛行した。 私は吹雪の中を行くうちに意識を失くした。 そして目が覚めた。 今度は何か暖かい場所に居る、辺りには雪はない。 身体を起こすと、目の前には雪女が居た。 白い顔に紅い唇、綺麗な顔だ。 不思議に怖くは無くて、聞いてみた。 「ここは天国なの」 雪女は笑ながら答えた。 「ここは主様のお住まいだ、お前を生かすか殺すか決めてくださる」 そして雪女の姿は消えた。 目の前にはキラキラ光る大きな木が有った、見上げると、ずっと上まで有る高い木だ。 私の目の前に何か現れた、しかし眩しくて姿は見えない。 「私は、この木の精だ、命と時を支配する、皆からは主と呼ばれている」 私は正座になり平伏した、凄く威厳の有る声だ。 「お前の名は」 「はい、彩と申します」 「私は決めた、お前は今から雪女となり生きる」 何を勝手に無茶苦茶な事をと思うが、逆らい殺されてはたまらない。 「寿命は千年とする」 「ありがとうございます」 へへへ、千年も生きるなら凄く楽しい事もあるだろうと思った。 「それで生きる時代だが」 「あっ、それなら幕末にお願い致します」 私は大の幕末フアンだ、人物や歴史には熟知している、沖田や竜馬に会えるかもしれない。 「わかった、では幕末に送ってやろう、先ほどの雪女がお前に雪女として生きる術を教える、心して聞くように」 「はい」 私が頭を下げると周りは眩しい光に包まれた。 頭を上げると、そこは雪山に変わっていた。 いきなりギュッと左腕を捕まえられた。 あの雪女だ。 「おい、これから雪女として生きるイロハを教える、私の名前はナダ、お前の名は?」 「はい、彩と申します」 いつの間にか、私は白い着物を着て、腰まで有る長い髪になっていた。
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