第三章 新たな敵

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小雪が芝居と言うものを見たいと言い出し、沖田さんが芝居小屋に連れて行った。 小雪は嬉しそうに出掛けた。 店には私一人になった。 しばらく、客は来なかったが、夕方に一人のお百姓さんが入って来た。 「あのう、お金の持ち合わせが無いのですが、後から必ず払いますからお願い出来ますか」 と頭をさげた。 「はい、良いですよ、中にお入りください」 彩は、お百姓さんを部屋にあげた。 板間で向かい合った。 「ご用件は?」 「私は太平と申します、実はうちの村に毎夜、輪入道が現れて、村人の魂を取りに来ます」 「そうなんですね、それは お困りでしょう、どこから現れますか」 「はい、夜に現れます深泥池の、辺りからなんです」 「お引き受けしましょう、深泥池に行きましょうか」 二人は深泥池に向かう。 やがて太平の家に着いた。 粗末な家で、倒れかけそうな感じがした。 「夜まで何も有りませんが、お入りください」 彩は太平の家に入る。 土間から板間に上がり、刀を脇に置いた。 夜を待つ。 やがて夜になり、東山に月が昇る。 雲が無いので月はよく見えた。 彩は入り口の戸を少し開いて様子を見ていた。 ガラガラガラ 深泥池の方から何か来た。 よく見ると車輪が、ひとつ走って来る、真ん中には顔が有る。 (あれが輪入道か) 輪入道は近くの家に向かい、戸を破壊して中に入った。 女の悲鳴が聞こえる。 「しまった」 彩は表に飛び出した。 「ひとーつ」 輪入道は魂を取ったのか、表に飛び出してきた。 すぐに日月護身剣を抜いた。 「輪入道、魂を返せ」 輪入道は彩を、見るなり向かってきた。 彩が左に転び避ける。 「二つ目の魂だ、逃がすか」 猛烈な勢いで向かってきた。 彩は渾身の力で袈裟斬りをだす。 「ぎゃあ」 日月護身剣の霊力で、車輪は二つに斬られた。 片方が転がって行き、近くの大木に当たる。 もう片方には顔が有った。 「動けねぇ」 顔を上にして倒れた。 「魂を返せ」 彩が叫ぶと、輪入道は涙を流した。 「わかった」 口から魂のようなモヤッとした物が出て、ふわふわと壊された家の中に入って行った。 中から、気がついて良かったなと声がした。 「他の魂は何処に有る」 「おたえに渡した」 「おたえとは、誰だ?」 「嫁が病気でな、魂を食べさせている」 「何処に居る、一緒に行こう」 彩は輪入道の車輪を掴み、ズルズル引きずって行く。 「ここだ」 彩が見ると荒れ寺が有る。 「中に嫁が居る」 中に入り、奥に進むと布団が敷いてあり、女が寝ていた。 よく見ると死んでいた。 「すでに死んでいるよ」 「わかっているが、魂を食べさせたら生き返らないか」 「悪いが、生き返らないよ、埋めてあげよう」 「では、俺もすぐに死ぬ、一緒に埋めてくれ」 「わかった、しかし人の女と結婚したのか」 輪入道は声が弱ってきた。 「そうだ、おたえはみなしごで、俺が育てて嫁にした」 「何と言うことを」 「おたえには、俺しか居なかった、喜んで嫁になってくれた」 彩が女を見ると、誰かに斬られた傷が有った。 「この傷は?」 「おたえに惚れた浪人が、おたえが拒むと斬りやがった」 「何処の浪人だ」 「光星の用心棒だ、左近と言う奴だ」 「あいつか」 輪入道を見ると、すでに死んでいた。 側に村人や太平が来ていた。 「可哀想に」 と、皆呟いた。 「悪いが一緒に埋めてやってくれ」 彩は一両渡した。 「わかりました、ありがとうございました」 村人は頭を下げた。 それから彩は光星の家に行き、左近の行方を聞く。 光星は、びっくりしたが。 「左近は、先ほど江戸に向かいましたよ」 「わかった、ありがとう」 彩は雪女に変わり、瀬戸の唐橋に飛んだ。 そして若い武士の姿になり、左近を待つ。 やがて左近がやって来た。 私が道に飛び出すと、左近はぎょっと驚いた。 「先日の奴か、何用だ」 「おたえを斬ったのは、お前だろう」 「知らんな」 左近はニヤニヤしていた。 急に懐に右手を入れて、拳銃を取りだした。 「今日手に入れた五連発だ、お前なんか怖くない」 「撃ってみろ」 左近は拳銃を発射した。 しかし眼前に彩は居なかった。 左近が後ろを振り向くと、彩が刀を抜き、示現流のトンボの構えになっていた。 左近が慌てて拳銃を向ける前に彩が袈裟斬りを出した。 「哀れな奴だ」 左近は、前に倒れてすでに死んでいた。 「初めて人を斬ったが、お前は人間ではない」 彩は瀬田唐橋を後にした。
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