第三章 新たな敵

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翌日の昼に、嵯峨野からきたと言う村人数人が訪ねて来た。 沖田が板の間に上がらせて話を聞いた。 初老の男が話し出した。 「実は七日前に、私共の村の近くで、朝方に一人のお侍様が駆けてきまして、後を追うように三人のお侍様さまが駆けて来られ、すぐに斬り合いになったのでございます」 「ほう」 「最初に駆けて来られた、お侍は斬られました、斬った三人は逃げて行きました、すぐに私たちは駆け寄りましたが、お侍様は事切れていました」 「身元はわかったのか」 「後から、たくさんのお侍様が来られて、亡き骸を引き取られて行かれましたが、その時に昔から有る人の形をしている石に血が着いていました」 「ふんふん、それで」 「すると血は石に吸い込まれました」 「それは奇妙な話だな」 「はい、翌日の朝に一人の村人が石の近くで死んでおりまして、首に歯形が有り血を吸われたようでした、そして人の形をした石は消えていました。 それから夜な夜な、村人が襲われています」 沖田は、しばらく思案していたが。 「昔に聞いた事が有る、人の血を吸う吸血鬼が居たそうだ、名前は飛縁魔(ひのえんま)とか聞いた、それは弘法大師が石に変えたそうだ」 「では、人の形の石は」 「そうだ、血を吸い飛縁魔に戻ったかもしれない、彩さん早く行かねば犠牲者が増える」 「わかりました行きましょう」 二人は村人と嵯峨野に向かう。 嵯峨野の手前に村が有った。 村人の接待を受けて夜を待つ。 やがて夜も更けて、沖田と彩は村人達と提灯を持ち、石の有った場所に行った。 するといきなり暗がりから彩に向かい、誰かが襲いかかって来た。 くわっと赤い口を開き、凄まじい顔だ。 彩は居合いの技を出した。 抜き打ちに斬られた飛縁魔は、ドサッと倒れた。 (この刀の力は恐ろしい) と彩は想う。 居合いも素晴らしかったが、日月護身剣の刀身には日月と北斗七星、青龍などが彫られていて美しく見事だった。 日月護身剣の噂は、たちまち広がり、京の有名な大店の刀好きな娘から、見たいとお声がかかった。 「彩さん、あの店は裏で金貸しもしている、用心棒も20人は居るそうだ、行かない方が良い」 「いや、断れば、かえって恨みを買うかもしれません」 結局、沖田、彩、五助、小雪の四人で行くことになった。 行けば大きな店構えだった。 店の中に入り、彩と名乗ると、すぐに離れの娘の部屋に通された。 離れに続く部屋に五助、沖田、小雪は待つように言われる。 離れの庭には四人の用心棒らしい浪人が焚き火を囲って居た。 彩だけが、離れに通された。 「よく来ましたね、早速日月護身剣を見せておくれ」 彩が刀を渡すと、すぐに娘は鞘から刀を抜いた。 日月、北斗七星、青龍などの彫刻が美しい。 「見事だ、これを私に売ってくれ」 「これは売り物ではありません」 彩が断ると娘はムッとした顔になった。 「では百両ではどうだ、良いだろう」 「いや、売る気は有りません」 「では、しばらく貸してくれ」 「それも困ります」 「そうか、売らぬか、仕方がないのう」 娘は鞘に刀を納めようとしたが、次の瞬間、彩の胸を刀で刺した。 不意をつかれて、深々と刺されてしまった。 彩は声も出せずに廊下に出ようと這った、胸からは血が溢れている。 「この刀は私の物だ」 と娘は叫ぶ。 もはや人の姿を、保てずに雪女に変わった。 白い雪のような肌、目は金色になっていた。 「お前は雪女か」 異変を感じた沖田や五助が、部屋から出て離れに向かう。 すぐに浪人四人が立ちふさがる。 沖田は斬りかかる一人の刀を避けて襟をつかみ庭に投げた。 もう一人を蹴り倒して離れに向かう。 五助も斬りかかる浪人を庭に投げる。 あと一人は逃げた。 沖田が部屋に入ると彩は、ぜいぜいと息をしていた。 「しっかりしろ、彩さん」 すぐに彩を抱き起こす。 「無礼者」 と斬りかかる娘を五助が投げる。 娘は頭を打ち、気を失った。 「彩さん、しっかりしろ」 「沖田さん、私は雪女…」 苦しそうに話した。 「初めからわかっていたよ」 「ありがとう沖田さん…さようなら」 「死ぬな」 五助と小雪は泣き出した。 「みんな…さようなら」 沖田に抱かれたまま、彩は雪が解けるように水になり、やがて消えた。 沖田も呆然としていたが。 「逃げよう、娘の怒りを買った」 すぐに三人は、店から離れた。 すぐに話し合い、店からの仕返しも有る事を恐れた、かなり力の有る連中だ。 彩を失い、京を去ることにした四人は、すぐに旅支度をして逢坂山に向かう。 「彩姉ちゃん、帰って来るよね」 小雪は泣き出した。 「帰って来るさ」 五助と、おみよも泣いていた。 沖田は京の空を見上げた。 雪がちらついていた。 薩摩と長州が幕府と戦いを始めたようだ、遠くに砲声が聞こえた。 「さあ行こう、江戸に」 江戸で何が有るかわからないが、沖田は彩は戻ると信じていた。 日月護身剣の鞘に着けた、彩にもらった折り紙の鶴が揺れていた。
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