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翌日の昼に、嵯峨野からきたと言う村人数人が訪ねて来た。
沖田が板の間に上がらせて話を聞いた。
初老の男が話し出した。
「実は七日前に、私共の村の近くで、朝方に一人のお侍様が駆けてきまして、後を追うように三人のお侍様さまが駆けて来られ、すぐに斬り合いになったのでございます」
「ほう」
「最初に駆けて来られた、お侍は斬られました、斬った三人は逃げて行きました、すぐに私たちは駆け寄りましたが、お侍様は事切れていました」
「身元はわかったのか」
「後から、たくさんのお侍様が来られて、亡き骸を引き取られて行かれましたが、その時に昔から有る人の形をしている石に血が着いていました」
「ふんふん、それで」
「すると血は石に吸い込まれました」
「それは奇妙な話だな」
「はい、翌日の朝に一人の村人が石の近くで死んでおりまして、首に歯形が有り血を吸われたようでした、そして人の形をした石は消えていました。
それから夜な夜な、村人が襲われています」
沖田は、しばらく思案していたが。
「昔に聞いた事が有る、人の血を吸う吸血鬼が居たそうだ、名前は飛縁魔(ひのえんま)とか聞いた、それは弘法大師が石に変えたそうだ」
「では、人の形の石は」
「そうだ、血を吸い飛縁魔に戻ったかもしれない、彩さん早く行かねば犠牲者が増える」
「わかりました行きましょう」
二人は村人と嵯峨野に向かう。
嵯峨野の手前に村が有った。
村人の接待を受けて夜を待つ。
やがて夜も更けて、沖田と彩は村人達と提灯を持ち、石の有った場所に行った。
するといきなり暗がりから彩に向かい、誰かが襲いかかって来た。
くわっと赤い口を開き、凄まじい顔だ。
彩は居合いの技を出した。
抜き打ちに斬られた飛縁魔は、ドサッと倒れた。
(この刀の力は恐ろしい)
と彩は想う。
居合いも素晴らしかったが、日月護身剣の刀身には日月と北斗七星、青龍などが彫られていて美しく見事だった。
日月護身剣の噂は、たちまち広がり、京の有名な大店の刀好きな娘から、見たいとお声がかかった。
「彩さん、あの店は裏で金貸しもしている、用心棒も20人は居るそうだ、行かない方が良い」
「いや、断れば、かえって恨みを買うかもしれません」
結局、沖田、彩、五助、小雪の四人で行くことになった。
行けば大きな店構えだった。
店の中に入り、彩と名乗ると、すぐに離れの娘の部屋に通された。
離れに続く部屋に五助、沖田、小雪は待つように言われる。
離れの庭には四人の用心棒らしい浪人が焚き火を囲って居た。
彩だけが、離れに通された。
「よく来ましたね、早速日月護身剣を見せておくれ」
彩が刀を渡すと、すぐに娘は鞘から刀を抜いた。
日月、北斗七星、青龍などの彫刻が美しい。
「見事だ、これを私に売ってくれ」
「これは売り物ではありません」
彩が断ると娘はムッとした顔になった。
「では百両ではどうだ、良いだろう」
「いや、売る気は有りません」
「では、しばらく貸してくれ」
「それも困ります」
「そうか、売らぬか、仕方がないのう」
娘は鞘に刀を納めようとしたが、次の瞬間、彩の胸を刀で刺した。
不意をつかれて、深々と刺されてしまった。
彩は声も出せずに廊下に出ようと這った、胸からは血が溢れている。
「この刀は私の物だ」
と娘は叫ぶ。
もはや人の姿を、保てずに雪女に変わった。
白い雪のような肌、目は金色になっていた。
「お前は雪女か」
異変を感じた沖田や五助が、部屋から出て離れに向かう。
すぐに浪人四人が立ちふさがる。
沖田は斬りかかる一人の刀を避けて襟をつかみ庭に投げた。
もう一人を蹴り倒して離れに向かう。
五助も斬りかかる浪人を庭に投げる。
あと一人は逃げた。
沖田が部屋に入ると彩は、ぜいぜいと息をしていた。
「しっかりしろ、彩さん」
すぐに彩を抱き起こす。
「無礼者」
と斬りかかる娘を五助が投げる。
娘は頭を打ち、気を失った。
「彩さん、しっかりしろ」
「沖田さん、私は雪女…」
苦しそうに話した。
「初めからわかっていたよ」
「ありがとう沖田さん…さようなら」
「死ぬな」
五助と小雪は泣き出した。
「みんな…さようなら」
沖田に抱かれたまま、彩は雪が解けるように水になり、やがて消えた。
沖田も呆然としていたが。
「逃げよう、娘の怒りを買った」
すぐに三人は、店から離れた。
すぐに話し合い、店からの仕返しも有る事を恐れた、かなり力の有る連中だ。
彩を失い、京を去ることにした四人は、すぐに旅支度をして逢坂山に向かう。
「彩姉ちゃん、帰って来るよね」
小雪は泣き出した。
「帰って来るさ」
五助と、おみよも泣いていた。
沖田は京の空を見上げた。
雪がちらついていた。
薩摩と長州が幕府と戦いを始めたようだ、遠くに砲声が聞こえた。
「さあ行こう、江戸に」
江戸で何が有るかわからないが、沖田は彩は戻ると信じていた。
日月護身剣の鞘に着けた、彩にもらった折り紙の鶴が揺れていた。
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