第四章 異国の魔物

4/12
前へ
/64ページ
次へ
その夜に泰屋の店の前に若い女が立っていた。 バリバリバリ 大きな音が、辺りに響く。 泰屋の表木戸が壊されて黒いものが飛び込んで来た。 「大熊だあ」 帳場に居た使用人が叫びながら逃げた。 用心棒達が駆けつけたが、大熊の凄まじい力で吹っ飛ばされた。 帳場を無茶苦茶に壊して叫ぶ。 グオー そして大熊は東に向けて逃走した。 その頃、彩達は伏見稲荷神社に着いた。 神社の入り口は灯籠で明るく周りを照らす。 拝殿横の、お札売り場で声をかけると使用人が出てきた。 すぐに葛の葉が現れた。 「お困りでしょう」 夜にも関わらず、葛の葉は五人を歓迎してくれた。 「しばらく住む所が無いのですが、空いている家は無いでしょうか」 「わかりました、稲荷山に空いている茶屋がございます、そこにご案内しましょう」 提灯を持つ巫女の案内で五人は稲荷山の細い急な山道を登る。 ようやく着いた、古い茶屋だ。 提灯を持つ巫女が表戸を開く。 「この二階にお泊まりください」 「ありがとうございます」 五人は、ようやく落ち着ける場所を得た。 結局は頼み込み、五助と、おみよ、小雪は茶屋で働く事になる。 彩と沖田は稲荷山門前町に、よろず相談処を再開した。 その頃、鳥羽伏見の戦いで、幕府軍や新選組は大阪に撤退していたが、船で江戸に向かった。 薩摩、長州等は東征軍を組織して江戸に向かう。 それを待っていたように、深夜に伏見の船着き場に船から三人が上陸した。 皆、黒い頭巾を被りマントを着ていた。 「お待ちしておりました」 泰屋の番頭と用心棒達が提灯を持ち待っていた。 最初に降りたのは若い女、顔つきは異国人だ。 「よろしく、お願いします」 番頭は頭を下げる。 「いえ、大歓迎です、あなた様は、この国の言葉を話されますね」 「船の中で通訳に教わりました、これからも学びます」 「そうですか、では駕籠にお乗りください」 番頭の後ろには駕籠が三っつ待っていた。 すぐに三人は駕籠に乗る。 そして泰屋目指して走り出す。 翌朝。 彩は東郷の事が気になり、錦の薩摩藩邸に向かった。 門番に彩と名乗り、東郷さんの事を聞くと、藩邸に居ると言う。 すぐに東郷さんに尋ねに行ってもらった。 すぐに門番は戻って来た。 「彩さん、お久しぶりです」 十蔵が来てくれた。 「東郷様の部屋にご案内致します」 彩は薩摩藩邸に入った、 一番奥の部屋に通された。 中には東郷が居た。 「彩、久しぶりだな」 「あんちゃん」 「まあ、座れ」 彩が座ると。 「元気で何よりだ、すぐに江戸に向かうのだがな、面白い話を聞いた」 「何ですか」 「私の密偵が神戸でイギリス商人に聞いた話だが」 「はい」 「イギリスから来た商人の中に、いかにも怪しい奴が居たらしい、特に若い女は怪しい雰囲気が有ったそうだ、京の呉服屋の泰屋と連絡を取り、商談をしていたが、密かに大阪から京都に入ったらしい」 「泰屋ですか、呉服屋ですが両替屋もしていて裏では悪どい事もしています」 「そうだ、イギリス人の中には神父が居たが、魔女と見破ったそうだ」 「魔女ですか、魔女が居るのですね」 「そうだ、その神父は確かに神父だか、裏の顔はゴーストバスターと聞いた」 「ゴーストバスターは幽霊退治ですね」 「よく知っているな、神父は、薩摩と取引の有るイギリス商人にも話したから、私に伝わった」 「魔女なんですね」 「そうだ、イギリスの、貴族から懸賞金をかけられた魔女らしい、神父は魔女の連れが二人居るから手出し出来なかったそうだか」 「恐ろしそうな奴ですね」 「では、私と十蔵は江戸に向かい発つので、これで失礼する、まあ会おう」 彩は薩摩藩邸をあとにして伏見稲荷神社に行き葛の葉を訪ねた。 「何用かな、彩さん」 「葛の葉さま、私に七化けの術を教えてください」 「何か理由が有るのだろう、わかった教える」 その夜から、七化け修行が始まった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加