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彩が若侍に変わった時よりも、さらに精悍な強そうな侍に化けた。
腰には九字刀を指している。
近くにある口入れ屋(仕事紹介)に入る。
年配の、やり手な印象の男二人が座っていた。
「用心棒の仕事は無いか」
「はい、今、泰屋様の手代の方が来られていて、腕のたつ用心棒を探しておられます」
もう一人の男が話し出した。
「あんた、剣術の腕は?」
男は湯飲み茶碗を右手に持っている。
「その湯飲みを私に投げろ」
「ケガをしても知らないぜ」
男は、すぐに湯飲みを彩に向かって投げた。
男には、抜き打ちを出して刀が何回かピカピカ光ったように見えた。
湯飲み茶碗が土間に落ちた。
「凄い」
男が確認に行くと、湯飲み茶碗は32個くらいに切られていた。
「凄い腕だ、雇いましょう、一日一両では?」
「前金20両、一日一両だ」
「わかった、雇いましょう、あなた様のお名前は?」
(しまった考えていなかった)
とっさに頭に浮かんだ名前にした。
「楽尾(ラグビー)だ」
「楽尾様、では店まで、ご案内致します」
彩は、手代と泰屋に向かう。
(しめしめ、上手く行った)
彩が切ったのではない、九字刀が実力を出したのだ。
途中、手代が話し出した。
「最近、いろいろ有りまして、あやかしが現れたり、大熊が暴れたりしましたが、用心棒は全然役に立たなかったんです」
「そうか」
泰屋に着いた。
お春の居た離れとは別の離れに案内された。
中に入ると浪人が十人居た。
一斉に、こちらを見て怒鳴った。
「挨拶しろゃ、お前は一日いくらだ」
「一両だが、前金二十両もらった」
「お前だけ、二十両もらいやがって」
一斉に全員が立ち上がり向かって来た。
彩は九字刀を抜いた。
「ご主人様、お呼びですか?」
「こいつらを手懐けてくれ」
「承知致しました」
刀から閃光が出た。
すると浪人逹が、態度をコロリと変えた。
「失礼しました」
「どうぞ、お座りくださいね」
「酒有りまっせ、どうぞ」
(恐ろしい効果だ)
親玉のような浪人に聞いた。
「最近、おかしな事ばかり起きるらしいな」
「はい、あやかしが出たり、大熊が出て暴れたり、この前は異人が三人来て泊まっています」
「イギリス人か?女?」
「はあ、女が一人、男が二人、不気味な奴らです」
「呉服を買いに来たのか?」
「それが京に住みたいから、どこかの屋敷を世話してくれと頼みまして高価な宝石をたくさん、お春様に差し出したのでございます」
(京に住み着く気か)
「しかし、頼みながら、今日の朝には姿が消えたらしいです」
「何処に行ったかわかるか」
「お春様も、旦那様も知らないようです」
(それなら用は無い)
翌朝、用心棒達は楽尾が消えているのがわかり騒ぎになった。
その頃。
彩は、よろず相談処に戻って来ていた。
「二十両、ただでもらっちゃた、悪いことしたかな」
中に入ると、女が頭を下げた。
「どなたですか」
「私ですよ、鬼熊です、しばらく置いてくださいな」
「沖田さん、お札は外しましたか?」
「とっくに外したよ、何でも俺に一目惚れらしい」
沖田さんが笑った。
「嫌ですよ」
女は顔を赤らめた。
「お熊って、呼んでくださいな」
彩は沖田さんの人の良さにあきれた。
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