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彩はハッと気がついた。
人間で居れば普通に食べて生きて行けるかもしれない。
彩は人間の村娘になった。
着物も村娘のようになっている。
本当に便利な能力だ。
前から男が歩いて来る。
刀を差している、侍だし年配だ。
「あー、若い男じゃない、残念」
見ているうちに侍はバッタリ倒れた。
彩は男に近寄り声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「もう動けぬ、何日も食べていない」
顔を見れば、なかなかしぶい顔付きだ。
私は侍を抱き抱えた、大柄ではないが重い。
私の足元がもつれ合い、侍を抱えたまま、二人で倒れてしまった。
倒れた弾みで、私の唇と侍の唇が重なった。
ストッと音がした。
「あっ、まさか私が生気を吸ったのか」
時すでに遅かった。
「私のファーストキスがー」
しかし侍は動かない、死んだのか。
息はしている。
「あー、良かった」
こうなれば邪魔臭い、私は雪女に戻り侍を抱えて空を飛び、近くの民家に運んだ。
民家の戸を叩き、叫んだ。
すると戸が開き老婆が顔を出したが、私の顔を見るなり叫んだ。
「ぎゃあ雪女」
老婆は必死に逃げようと走り出した。
「あっ、違いますよ、何もしませんから」
しかし老婆なのかわからない速い走りで視界から消えた。
「あーあ」
私は村娘の姿になり侍を家の中に運ぶ。
厚かましくも布団を出して侍を寝かせて、ちょうど粥が有ったから食べさせた。
侍は、起き上がり夢中で粥を食べて、落ち着いたのか頭を下げた。
「かたじけない、私には金も無くてお礼が出来ない」
「ここは私の家では無いのです、お願いがあります、私をあなた様の妹と言う事にしてくださいませんか」
「わかった、事情はわからないが心得た」
外が騒がしいので、私は外に出た。
「この辺りの村人か、20人くらいが棒や鍬を構えていた」
「あんた、雪女は何処に行った」
「何処かに消えました、勝手に入り込み申し訳ありません」
結局、村人は納得して、帰った。
それから老婆には、薪を取りに行ったり、狩りをするからと頼み家に置いてもらった。
侍は、薩摩藩の東郷と名乗った。
何でも示現流の達人らしい。
「お礼にと朝夕に示現流の剣術を教えてくれた」
朝夕に大木に向かい刀に見立てた棒を数千回叩き込むのだが、私は雪女、すぐに技を習得してしまった。
「最低3年以上かかる基本を一月で身につけるとは、彩は天才だな」
この頃は、私を彩と呼びつける。
「俺を、旦那様と呼びなさい」
「私は、東郷様の妻になるつもりはありません」
「良いではないか、師弟の仲では無いか」
「嫌です」
「じゃあ、あんちゃんと呼んで」
「はい、あんちゃんなら良いですよ」
この、あんちゃん何をしたのか、山中に八人くらいの男の気配がした、明らかに殺気立つ気配がした。
「あんちゃん、刺客が嗅ぎ付けたよ、何をしたの」
「後から話す、とにかく老婆に迷惑はかけられない外に出ようか」
彩が老婆を見ると、早々と布団に入り寝ていた。
「彩、少し短い刀だが使え」
あんちゃんは、背中にしょっていた袋から刀を取り出した。
「ありがとう」
「お前は弟子だか、関係はない、適当に逃げろ」
「わかったよ」
二人は外に出た。
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