一章 雪女

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寺田屋の二階の部屋に入ると、龍馬は部屋の戸を閉める、下は船着き場で船やたくさんの人がいたからだ。 座るなり彩に菊一文字を見せてほしいと言った。 彩は菊一文字を渡す。 龍馬は刀を抜く。 彩が見ても、細い刀身に美しい輝きだ。 「よくやった、これはわしが預かる」 「あのう」 「何だ」 「実は東郷様は新選組に捕らえられました」 「そうか、気にするな、あいつは忍びの心得がある」 「忍びって、忍者ですか」 「そうだ、あいつが捕まるなら、また何かしたいのだろう」 「そうなんですね、しかし菊一文字はなにに使うのですか」 「うん、あやかしを退治するためだ、わしら土佐と薩摩は菊一文字を手に入れるために探していた」 「あやかしって妖怪ですか」 「そうだ、知らないのか、新選組の局長が、誤って結界を破ったのだ」 「近藤勇ですか、普通の人間に破れますか」 「いや、たまたま結界を破れる刀を抜いて結界の在る場所で刀を振り、結界が破れたのだ」 「それで、あやかしが」 「そうだ、安倍晴明が閉じ込めたあやかしが世に出た、その親玉が菊一文字でしか斬れない、わしはそれを知り京に来た」 「そうなんですね、何か歴史と違いますね」 「うむ、私は今から出掛ける、東郷さんにはよろしくな」 私は仕方なく外に出て、龍馬を、見送る。 せっかくだから巨椋池を見に行く事にした、昭和には埋め立てられて消えた美しい巨大な池だ。 「おい」 いきなり背後から声をかけられた。 振り向くとイケメンの若い男が立っていた、町人だ。 「はい、道を私に聞いても知りませんよ」 「道ではない、お前は雪女だろう」 「えっ違いますよ」 「私にはわかる、ごまかすな、私は安倍晴明の子孫の安倍与作だ」 「与作さんって、安倍晴明の子孫らしく無いですね」 「うむ、江戸時代になり、我が家は分家で仕方なく百姓になったが、私は与作を名乗っている、本当の名は明かさぬ、今は頼まれてあやかしの退治もする」 「それで私に何用ですか、私を退治したいのですか」 「違う、実は巨椋池のあやかしを退治してほしいと頼まれたが、小舟で池に入ると小舟は木っ端微塵に壊されて、私は池に投げ出された、正義の雪女と見込み手を貸してほしい」 「私が正義と?」 「見ればわかる、お前からは邪気は出ていない、さあ手伝ってくれたら5両やろう」 「5両は、何円ですか?」 「は?」 「いや、すみません、お金が、無いからやります」 「よし、夜を待ち巨椋池に行こうか、そこの茶店で夜を待とう」 「はい、わかりました」 私は与作さんと茶店に入った。
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