一章 雪女

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茶店に入り、奥の座敷に上がる。 「甘酒は在るか、二つ頼む」 与作さんは、茶店の看板娘に言ったが、明らかにニヤニヤしている。 こいつ、意外に女好きなんだなと思った、気をつけなきゃ。 「はい、甘酒二つですね、おおきに」 看板娘は笑顔でこたえた。 やがて運ばれて来た甘酒は、とても美味しかった。 「伏見は酒造りが盛んだから、酒粕も上手い」 …と伏見(ふしみ)の歴史を語ってくれた。 やがて陽が暮れて来た。 私と与作さんは茶店を出た。 巨椋池(おぐらいけ)沿いに歩くと、池に夕陽が映りキラキラと輝き綺麗だ。 旅人や、他に人が居なくなる、すると、いきなり二人の浪人が前に立ちふさがる。 「お前だな、近頃俺たちの仲間を消しているのは」 「さあ、知らぬな、人間違いではないかな」 「しゃらくせえ」 いきなり浪人は刀を抜き放ち、斬りかかってきた。 与作さんは刀を避ける気配が無い、私は咄嗟に浪人の腹を蹴る。 「ぐわっ」 浪人は飛んで池に落ちた。 私は浪人の落とした刀を拾い構えた。 示現流独特のトンボの構え、右上に刀を立てる構えで、あんちゃん直伝だ。 もう一人が私に斬りかかる、私は刀を振り下ろして、浪人の刀にぶつけた。 ガキッ 刀がぶつかる音がした。 浪人は、衝撃に堪らず刀を手から地面に落とす。 そして、急にくるりと体を反転して逃げ出した。 私が追いかけようと走り出すと何かに足を引っ張られて前に転倒した。 見ると右足には、赤い長いものが巻き付いている。 池に落ちた浪人が正体を表した、ガマのような体の口から長い舌を出していた。 すると与作さんが、口で呪文を唱えて紙切れをガマに向かい投げた。 紙切れはヒラヒラと飛びガマの頭に当たるや、ガマの叫び声が聞こえた。 ガマは圧死したようだ。 「死んだの?」 「そうだ、仕方が無い事だ」 「そうだね」 逃げた浪人は姿が見えなくなった。 「最近は、あやかし退治の頼みが増えたからな、俺も奴等に目をつけられたな」 「怖いね」 「良いさ、とりあえず、巨椋池の主退治だ、行こう小倉村に」 「小倉村に主は居るの?」 「そうだ」 私達は小倉村に向かい歩いた。 すると神社が見えて来た、与作さんは池に向かい歩き始めた。 池のほとりに小舟が泊めてあり、漁夫らしい男が乗っていた。 与作さんを見て、漁夫か頭を下げた。 私も頭を下げた。 「この男は、私の式神だ」 「はい、風鬼と申します」 「式神ですか?」 「私が生き物から式神を作る」 「何の生き物ですか?」 「いや、生き物や花とか、いろいろさ」 「すごいですね、与作さんは」 「朝飯前だよ」 「風鬼、池の主は居るか」 「はい、近くにおります」 「わかった、では行こうか」 私はドキドキしてきた、池の主はなんだろうかと想像する。 与作さんを見ると陰陽師の姿、平安京の貴族にも見える衣装に変わっていた。 「おー、凄い」 「さあ、舟に乗れ行くぞ」 私が舟に乗るや、池の真ん中に向け漕ぎ出した。 「居た、彩、気をつけろ」 池を見ると巨大な黒い影が さざ波を立てながら、こちらに向かって来た。
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