一章 雪女

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与作さんは黒い影に向かい、お札をつきだして呪文を唱えると、お札からたくさんの、つる草が延びて行く。 水の中に居る主にくるくると巻き付いた。 主は水を跳ね上げて暴れだした。 すると、つる草は、ぶちぶちと切れだした。 「風鬼」 与作さんが叫ぶと風鬼は池に飛び込んだ。 主を抱え込み抑えつけようとしたが、つる草は全部切れてしまった。 すると、主が水面に姿を表した。 彩が叫ぶ。 「鯉だ」 「そうだ200年は生きた鯉だ」 主は口を開けると風鬼をパクリと飲み込んだ。 「あっ風鬼さんが」 「構わぬ、風鬼は鬼ヤンマから作った」 「トンボさんだったのですね、可哀想に」 主が私達に向かって来た。 「あかん、彩頼むぞ」 与作さんは諦めたようだ、困った奴だ。 私は雪女に姿を変えて宙に浮いた。 風になびく長い髪、白い肌。 主に向かい氷に変える術をだした。 極低温の吹雪に水面はたちまち氷ついた。 辺りは猛烈な風が吹き猛烈な吹雪になった。 すぐに主は凍り動かなくなる。 「さすがだな彩」 与作さんが笑みを浮かべる。 私達は凍った主を池から引き上げた。 「寒う」 与作さんは震えていた。 「やり過ぎたかな」 「さあ、こいつをどうするかだな」 すると生きているのか主が話し出した。 「もし、聞いてくださいな」 私は可哀想になり話を聞く事にした。 「なんだい」 「私は300年生きた鯉でございます、まもなく池の水が天の門に向かい流れて門が開きます、そのために私は魚をたくさん食べて体力を蓄えました、その天に向かう滝を昇れば龍神になれます」 「そうなんだ、与作さん助けてあげようよ」 「うむ、しかし龍神になれば私らには倒せない、今殺すのが良いかもしれん」 鯉は涙をながし出した。 「龍神になっても、あなた方には恩に来ます、先で必ず恩返しを致します」 しばらく与作さんは考えていたが。 「わかった放してやろう」 「そうだね、良かった」 二人で鯉を池に戻した。 そして天の門が開くのを待っていた。 夜半に、二人で月に照らされた池を見ていると。 凄まじい勢いで池の水が天に向かい昇り出した。 すぐに、主は水の滝を昇り出した。 途中、疲れたのか少し下に落ち出した。 「頑張って」 彩の声が聞こえたのか主は昇り出した、そして視界から消えた。 しばらくすると、水が池に落ちてきた。 「龍神になったのかな」 「そうだな龍神になったようだな」 突然雷鳴が轟き、空の稲光りに龍神が映しだされた。 「良かったね」 すると与作さんは私に5両を差し出した。 「ありがとう」 へへへ、多分数十万円の価値はありそうだ。 「では、また機会が有れば会おう」 クルリと背を向けた与作さんは町人姿に戻っていた。 「良い男だなぁ」 名残惜しいが、私は新選組に捕まった東郷さんが気になる、私は京に向かい歩き出した。
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