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 「なんじゃこりゃあ」  その日、私は私事で人の住む世界とやらに足を踏み入れていました。ええ、大変私事ですよ?  決して上の人間から「人の住む世界とやらをちょっと観察してきてくれ」と言われたは良いけれど、予想よりも大幅に予定が早く終わってしまったのでうっかり観光をしてしまった、ではありませんよ。両手に持っている紙袋をどうやって消費したうえで魔界に帰ろうか悩んでいたところを森の中で迷ってしまっただとか、決して違いますよ?  たしかに任務でもある「人の住む世界の観察」は、予定よりも大幅に終了しました。  この任務の内容は、「時間軸の大きな変動があった」です。  本来であれば決して動くことのない時間軸とやらが、なんらかの意図的な方法により動いてしまった。結果としてほんの微量ではあるものの、本来動くはずであったものが動かなくなった。  つまりは未来が変わってしまったということ。これは私『死神様』が行うべき任務ではないのですが、上から言われてしまえば、「嫌です、したくないです」とは言えません。  予定よりも大幅に終わった任務ですが、結果としては「不明」で終わらせてしまいましょう。これが私の判断でした。  誤解をしないでいただきたいのですが、決してこの任務について手を抜いたわけではありません。時間軸が動いた痕跡が消されていたのです。ええ、信じがたい事実ではあります。なので「不明」と扱うほかないでしょう。  けれど、これではっきりとした事実が一つだけわかりました。この時間軸を動かしたのは間違いなく「魔力を所持する者」、つまりは人の住む世界に降り立った悪魔か天使、ということになります。  なぜ断言できるのか?  人には生憎魔力というものを持ち合わせておりません。というか、持ち合わせているのであれば、どうして「魔力を持ち合わせることができないはずの人間」が「魔力を所持しているのか」ということになります。  人と悪魔や天使、私たち『死神様』は、基本的に体の構造は、何ら変わりはしません。が、人間が魔力を持とうとすると、人間の身体に負担が大きく加わり、結果的に人間が内面的に崩れ落ち、やがて早くに命を落とすとのことです。なので、人間が魔力を持つことは物理的に不可能なのです。  ですから、時間軸を動かしたのは、「天使か悪魔」だと。ちなみにこの選択肢が出来たのは『死神様』が人の住む世界に行く場合、かならず通行書というものを発行しなければならないのです。これなくては、どうあがいても人の住む世界に行くことは不可能です。たとえ魔力を使おうとも、です。『死神様』が人の住む世界に行ったという記録は、今のところなかった。ならば天使か悪魔かどちらかであろう、これが上が下した決断でした。  きっとどこぞの阿呆者が魔力を使い、時間軸を動かしたのはほぼほぼ間違いない。上が追加でよこしてきた任務は『ついでにその阿呆もしょっぴいてきてくれ』とのことです。どうして私が、めんどくさい、という気持ちをぐっとこらえ、両手に抱えきれんばかりの紙袋を抱きながら、森の奥へと入ります。  人の住む世界で大量に購入したお土産を、いかにして上にばれることなく私が住んでいる家まで転送させるか?  これを考えながら森の中を歩いていると、気がつけば方向感覚を失ってしまいました。決して迷子になったとか、道に迷ってしまったとかではありません。ただ単純に来た道と帰り道が分からなくなっただけです。
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