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「うん、まぁそんなところだろうな。洋蔵が霊粋会(れいすいかい)から黒矢鬼山を買い戻したのが約30年前……それ以来、教団の礼拝施設も洋蔵の個人所有物になっている。山は洋蔵に監視されているといっても所詮は初老の男が独り眼を見張らせているに過ぎない。俺たちは周到に作戦を練り、あとは決行するだけだ」 「そう願うよ」 そう言うと佐田はシュガーとミルクがたっぷり入ったコーヒーを飲み干した。  霊枠会は埼玉県の秩父に本拠を置く小さな新興宗教である。 会の発足は昭和6年、開祖吉谷菊枝の神がかりに端を発する。 典型的な霊媒体質だった菊枝は、トランス状態に入ると異言を操り、この世ならぬものとの交信を開始する。  菊枝が交信する神は「ばふうめす」と呼ばれる太古の神だという。菊枝は「ばふうめす」をしばしば「馬封眼洲」と綴り、その神託を紙にしたためた。それらの神託は基本日本語なのであるが、時折奇妙な異国の言葉が混在しているという。
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